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一瞬、思わす悲鳴を上げそうになったけれど、私はそれを堪えて、腕を引く手の方を見る。すると、そこには桜木の姿があった。
「あんた、河野のオッサンから逃げたいんだろ? だったら、しばらく俺と一緒にいな。あのオッサンは俺のことが苦手だから、寄ってきやしないから」
「えっ!?」
私が河野の方に視線を向けると、たしかに彼はそそくさと離れてゆく。その様子を見た私は、
「ありがとうございます」
と桜木に礼を言った。
「なに、構わないさ。あのオッサンは、金婚活では有名でな。あまりに品がないんで、誰も相手にしない。だから、あんたみたいな初参加の人間を狙って付け回すんだ」
「そうだったんですか。私、何も知らずに」
「まあ、気を付けないとな。あんたみたいな人間は簡単に騙されるしな?」
「騙される?」
「ああ」
桜木は唸るように声を上げた。
「騙されるっていうのは、どういう意味ですか?」
「あんた、中間印象カードには誰の名前を書いた?」
私は答えるべきか否か、少し迷ったけれど、
「中村さんと、吉川さんです」
と答えた。すると、桜木はクックックッと笑いを圧し殺す。その失礼な態度に、助けてもらった恩も忘れて怒りそうになったけれど、そんな私の様子に気づいたのか、
「失礼」
と桜木が頭を下げた。
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