夏の思い出

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 ずば抜けたバッティングセンスと、身長百九十センチという恵まれた体格を買われ、他の一年を押しのけレギュラーの座についた郷が、浮かれてとんでもない宣言をしたのだ。  監督の話が終わり、視聴覚室からゾロゾロと全員が出てきたところだった。 「せ、先輩。真琴先輩」 「ん?」  俺と並んで歩いてたマコを郷が呼び止めた。 「来年、俺、絶対っ甲子園に……」 「うんうん。一緒に頑張ろうな」 「真琴先輩を、つっ、連れて行きます!」 「……へ?」  マコと一緒に立ち止まった俺は絶句。その郷の頭を後ろから思い切り叩いたのは松川だった。 「いたっ!」 「てめ、ざけんじゃねーよ。なんでお前なんだよ」 「はは……ははは。そ、そうだよ……」  俺はどうにか笑ってみせた。郷が大きな体を折り曲げペコペコ頭を下げる。 「あは。すみません。目標を掲げた方がやる気倍増じゃないすか?」 「目標は甲子園だろうが! なんでドサクサに紛れてマコを南ちゃんにしてんだよ! じゃ、お前はかっちゃんか!」  郷が首を傾げる。 「え~? そんなぁ。俺、ショートだし。どっちかってゆーと、かっちゃんは松川先輩かと……女子にモテモテじゃないっすか?」 「かっちゃんはピッチャーだろうが! だから、かっちゃんは江本だよ!」  松川のとんちんかんな返しに、ムードメーカーの江本がケラケラ笑う。   「え? なになに? 俺? テレる~。でもキャラ的にはたっちゃんタイプだよねぇ。マコちゃん」 「はぁ?」
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