夏の思い出

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 何の話だよ、と思いつつマコの肩を抱いて保護するように引き寄せる。愕然としていたが、松川と江本のバカな会話のお陰で冷静さを取り戻すことができた。 「おまえらわかってねーな。マコを甲子園に連れて行くのは俺だよっ! なんてな。みんなで一緒に行くんだろ?」  マコの顔を覗き込み同意を促すと、マコはにっこり微笑み小刻みに頷いた。 「ゴウの気持ちは有難いよ。だから俺のためにホームラン量産してくれたら嬉しい。期待してるよ」 「は、はいっっっ!」  郷はマコの言葉に、顔を真っ赤にして最敬礼しやがる。  なんなんだコイツ。さっきは自分から宣言したクセに真っ赤になってんじゃねーよ。ガチくせーだろうが! つーか! マコもマコだよ! 「俺のため」なんて言って! じゃ、郷がホームラン打って試合が決まったら御礼のチューとかしてやるつもりなのかよ!  内心モヤモヤしてると今度は、のんびりした声が背後から聞こえた。 「おいらもマコのために頑張るよ~」  ギョッとして二人で振り返ると、昇君がほのぼのした表情で突っ立てる。マコが可愛らしい声でクスクスと笑った。  荒々しいというか、ガサツで臭くてむさくるしい男の集団の中に咲く一輪のコスモスのようだと思う。バラやタンポポじゃなくてコスモス。俺の、俺だけじゃない、野球部で唯一の癒しの存在だ。  マコの家は花屋をしているから、マコからはいつもいい匂いがする。小学生の時からそうだ。一緒に日焼けしても、しばらくすると元の色に戻ってしまうマコ。控えめで愛らしい顔立ち。平和主義で自己主張もあまりしない。そして誰に対しても優しい。好きな言葉は『縁の下の力持ち』 「キャプテンまで……ふふ。ありがとうございます」 「ええー? 俺だってマコちゃんのために頑張るよぉ~?」  江本が元気に手を挙げる。 「はいはい。期待してますよ。エースさん」 「だからー! 俺だって言ってんだろ? ゴウよりぜってーホームラン量産してやる!」  松川は誰よりもメラメラしていた。きっと四番は松川だろう。先の決勝戦でも三番だったし、その試合でホームランを打ってる。下級生の郷にあそこまで言われたら着火するのも仕方ない。 「まっちゃんは有言実行の男だもんね。頼りにしてるよ」  マコは上手に松川を褒め、俺をチラリと見た。 「リュウちゃんは?」 「うっっ」  上目遣いでいきなり振られ、焦って口走る。 「も、もちろん!」  何が『勿論』なのかまでは言わなかったけど、マコは俺の言葉に満足そうにニッコリ微笑み言った。 「約束ね」 「お、おう」 「ふふ」  嬉しそうに目を細めるマコ。  郷のこと言えない。大好きなホットケーキにメープルシロップをたっぷりかけたような甘ったるいのが内側から込み上げて、脇の下からジワリと汗が滲む。それをマコに悟られないよう、肩に回した腕をはずし、誤魔化すようにグルグルと肩を回した。 「よーし、じゃあ、練習するかっ!」
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