夏の思い出

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 八月一日から十日までの合宿。正直、テンションが上がってた。十日間も、マコと一緒に居られる。  湿度の低い爽やかな風の吹き抜けるグランド。朝は涼しいくらいだし、夜もエアコンなんて要らない。山の上。一緒に練習して、一緒に飯食って、一緒に風呂入って……布団を並べて……。  ずっとワクワクしてたのに、八月一日に学校へ現れたマコは白い三角巾をしていた。「ちょっとドジっちゃって……」理由を聞いた俺に、マコは曖昧に言葉を濁した。  前日の部活が終わった時、マコは怪我なんてしてなかった。いつものように自転車に乗り、みんなでラーメンを食って「じゃ明日な」ってバイバイして……マコは左手を可愛く振った。あの後、マコに何が起こったんだろう。 「おら! 大倉! もう一本行くぞ!」 「お願いします!」  ファーストの守備をする一年の大倉にノックをする監督。マコは気にしてない様子だった。でもきっと、悔しいに決まってる。本当は、合宿だって休んでも良かったんだ。手首を骨折じゃ走ることだってできない。キツい練習は一日中続く。でも、見てるだけの方がもっとキツいだろうに。 「あちー」 「はい、リュウちゃん」 「お、サンキュ」  十五分の休憩になって、一年がみんなにスポーツドリンクを配る。スポーツドリンクは常温だ。だから、ビニールに入った氷も配られる。みんなそれを首に当てながら常温のスポーツドリンクで水分と塩分と糖分、アミノ酸を補給する。  木陰であぐらをかいて、スポーツドリンクをゴクゴク飲む。隣に座ったマコがビニール袋に入った氷を、うなじに当ててくれた。 「……あ~……気持ちいい~」 「うんうん。お疲れ様」 「風吹くと超気持ちいいな」 「だねぇ。嘘みたいに涼しいよねぇ」  ずっとこうしてたいわ。 「大倉くん背高いし、手足長いし……ファースト向きだよね」 「え?」 「どんなボールでも取ってくれそう」  足元の草をブチブチと引っ張りながらマコが静かに言った。マコの身長は百七十そこそこ。俺より十センチほど低い。昔からマコの唯一のコンプレックスでもある。 「……どんな球でも取ってくれるのは、マコだろ?」 「あは。ありがと」 「俺のワンバウンドの球でも、すっぽ抜けしちゃった球でも、すんごいジャンプして取るのはマコだけだよ?」 「あははは。大暴投。たまーにあるもんね」 「自分でもビックリするもんな」  笑顔を見せてくれたマコにホッとしてたら、「真琴!」と監督が呼んだ。  ちっ! いいところだったのに! 「はい! じゃ、がんばってね」 「おう」
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