夏の思い出

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 マコは地面に手を突き「よっこいしょ」と言いながら立ち上がった。走らなくてもいいのに、小走りで監督の元へ行く。  テントの中にいる監督に横のパイプ椅子を勧められたのか、隣にチョコンと座った。ウンウンと頷いてにこやかに喋ってる。  なんだなんだ、あいつ。マコと喋りたいだけかよ! 生徒に手ぇ出してんじゃねー。淫行教師め! と心の中で、理不尽な罵詈雑言を浴びせていると休憩が終わった。  グランドに戻りながらマコを目で追う。Aチームの練習とは別メニューのBチームの元へ向かっているようだった。  えー。あっち行っちゃうの? こっちで俺の練習見ててくれよ。  一気にテンションが下がる。ショートの郷をチラリと見ると同じように残念そうな表情。結局マコは、二軍コーチの手伝いや一年の手伝いで忙しくしてて、Aチームの練習には全然顔を出してくれなかった。  初日がやっと終わった。  はー。これがあと九日間も続くのか……地獄だなぁ。とうんざりする。最後のリレーランニングがきつかった。足がパンパンだ。風呂は温泉で気持ち良かった。筋肉疲労の回復や打ち身捻挫にもいいと書いてあったしマコも入れるといいのに……。骨折の時って風呂はダメだよな。きっと。  カツ丼を食いながらボーッと考えてると、隣のマコがカツを乗せてくれた。 「俺、あんま食欲ないからリュウちゃん食べて?」 「お、おう。サンキュ」 「お風呂気持ちよかった?」 「ああ、うんうん。良かったぞ?」  マコは小さなお口でカツをモグモグしながら、天井に黒目を向けた。 「ん? どした?」 「リュウちゃん、俺、頭痒い……洗ってくれる?」 「へ?」 「ギブス濡らさないようにして……風呂は入っちゃダメだけど、シャワーはOKだって言われたからさ」 「……っ! ぐふっ! ぶほっ!」 「わっ! 大丈夫?」  突然むせた俺をマコが心配そうに背中をトントン、ナデナデする。その感触にますます体から汗が噴き出した。
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