その名は、幻魔文庫

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「ああ、”向こうの世界”では、君は、僕を先生なんて呼ばなかったそうだけどね」 「?その世界の私は、先生をなんて呼んでいたのでしょうか」 「ずっと、東君、だった。僕がいなくなるまで」 「・・・????」 「え、なに、その顔は」 「・・・それは、もしかしたら、私の知っている世界とは違うのかもしれませんね」 「・・マジすか」 「マジす。で、どんな世界に行かれたのですか、先生は」 「僕が行った世界では、僕が箱根セミナーの途中で失踪して、その後何十年も行方不明のまま、終わった・・そういう世界」東丈は、どこか恐る恐るいった。 「それ、違いますね。私たちは、”世直しGENKEN”で、最後に先生とともに玉砕したって、すっごい記憶なんですから」 「わお・・」 「私たちの予想以上に、この平行世界って多いのかもしれませんね」 「そういうことかあ」 「じゃあ、いまさらですけど、先生は、平行宇宙を移動する能力を開花されたんですね」 「そこなんだけど・・」 「どこなんです?あ、ごめんなさい、冗談です」 「いや、いいんだけど」 「もしかして、その能力、なくなっちゃったんですか」 「・・・ごめん。幻魔を封じたら、なくなっちまった。どうも、あいつ、僕の能力を嵩上げしたのじゃないかな。今思えば、あいつのおかげで、僕は一時的に17歳の少年に戻らされたわけで」 「マジすか」 「マジす」 「で、その幻魔、今どこにいるんです?」 「聞いてどうするの」 「とうぜん、弟子入りして、17歳のころに戻してもらうんです。これでも、かわいかったんですよ、私」 「郁姫は、今もかわいいですよ」 「・・・やはり、キャラ、替わってませんか、昔は、そんなこという先生ではなかったでしょ」 「そうだったかな。まあ、あの、幻魔と戦った経験が、僕を変えたのかなあ」 「で、その幻魔、どう退治したんですか?殺せましたか?」井沢郁江はいつになくシビアな顔をして聞く。 「うんにゃ」しかし、東丈の返事は、あまりに軽かった。 「うんにゃって・・じゃあ」少し、ずっこけた様子を見せて、郁江が受ける。 「トルテック技法を使って、そこにある”閉鎖空間”に封じ込めた」 「トルテック技法・・たしか、今、先生が研究している、中南米のインカとか、あの時代の呪法ですよね。”閉鎖空間”というと、それは、なんちうか、たとえば、ブラックホールみたいな?」 「ああ。そこから這い上がってくるのは、不可能だと考えられているからね」 「なんだか、その昔、役の小角が大蛇を封じ込めたように、ですか」 「・・ああ、そう言われてみれば、そうだね、そういう話があった」
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