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「そうですね。で、先生ならば、どうされたんですか」
「僕だったら、少なくとも、幻魔と刺し違えるとか、心中を選ぶだろうな・・と」
「え・・」
「大事な、僕の愛する人たちが、一人でも失われるのを、もう、二度と見たくない。その気持ちが、ね・・こう、するんだよね。それは、本当に、僕の魂の奥からの、願いで」
「先生・・」
その言葉の強さに、郁江は、言葉をなくしたようだった。
「実際には、その世界を僕は知らないのだけど、どうやら、僕はその平行世界のひとつの中で、姉さんを失ったらしい・・詳細はわからないのだけど、幻魔に襲撃されて。炎の中で、姉さんは焼け死んでしまったそうだ。その悲しみは、僕の魂に深く刻まれて、それは、平行宇宙で、世界をやり直そうとする、全ての僕の魂に深く刻み込まれたのだようだね」
「この世界でも・・」
「ああ、この世界でも、姉さんは新しい伴侶を得て、”安全圏”に旅立って行ったしね。その意味では、安心して、僕はあの幻魔と向き合えたんだ」
「そうなんですか・・先生を刺激してはいけないと、前の世界では大恩ある三千子お姉さまにも、不用意に接触しないようにしてきましたが」
「僕なんかと違って、姉さんはもっと自在に世界を行き来できるようだけどね・・もともと、そういう超能力の持ち主だったみたいだ」
「東先生の三兄弟は、みなさんが超絶的超能力者だったのですから、当然といえば、当然なのですが」
「じゃあ、卓のことも?」
「ええ、でも、私たち、海外にはネットワークがないので、行方不明になられたまま、何もなすすべがなくて」
「そうか、そうだったのか」
「申し訳ありません」
「そんな、すまながることはないよ、郁姫」
「しかし・・」
「卓は、この世界に戻ってきたよ」
「え、いつの間に?で、いま、どちらに?」
「わからない」
「わからない?」
「ああ、娘の美惠子に会って・・後は、また、気ままに旅に出たらしい。その意味では、あいつも平行宇宙を行き来する能力を持っていたのかなあ。郁姫が、そういってくれたけど、東三兄弟の中で、僕はどうも落第生みたいだ」
東丈は、どこか照れたように、しかし、どこかそれを安心したように、口にしたのだった。
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