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In the red wind
砂塵の吹きすさぶ、荒野。そこを、小さな影が進んでいく。砂をまとう風から身を守るように、フードのついた外套を身にまとい、吹き飛ばされまいとするかのように、身を低くかがめ、一歩一歩、歩いていく。
その表情はフードの陰に隠れ、うかがうことはできないが、ただ唯一、風にさらされた口元は、その意思を表すかのように、強く噛みしめられている。
浴びる者を焼けつくような痛みをもって苛む、炎のごとく紅い夕陽が、その頬を刺すように照らす。
そのまばゆい光に、その小さな影は不意に顔を上げた。
フードをかぶった顔が、光によりあらわになる。
それは、まだ幼さの残る少年であった。吹きすさぶ風になびくぼさぼさの長髪に、がさがさに乾いた肌は、歩んできた道のりの凄惨さを物語っている。
この退廃した、絶望的な世界で、誰もが抱える闇を、少年もまた持っていた。
しかし、顔を上げた少年には、唯一、絶望に染まっていないものがあった。それは、少年の瞳である。赤みを帯びた、その瞳は、砂塵の吹きすさぶ中でも、まるでそれに染まるのに抵抗の色を示すかのように、ぎらぎらと輝いていた。
「もうすぐ……もうすぐだ……」
砂埃が口の中に飛び込むのも構わず、少年は唸る。
その言葉を吐くのとともに、少年は外套のふところを探る。やがて彼の手が、鋼鉄の冷たく硬い感触に触れる。確かめるように手元をちらりと見やると、少年はそれを取り出した。
――――ひどく巨大な、リボルヴァー。
ずしりとしたその感触に、気圧されるように。あるいは、どこかにおびえのような感情をもって。少年は、それを見た。
「――――父さん……」
その瞬間、少年のつぶやきに呼応したかのように、吹きすさぶ風がまとう色を変えた。砂にまみれた土色から、沈む夕日の色をたたえた、血のような赤い色へ。
その変化に、少年が顔を上げた。そして、夕陽のまぶしさに――――そして、目に飛び込んできた物の存在感に目を細めた。
「……来たぞ、ついに」
吐き出すように言うと、少年はふたたび歩き出す。視界に入ってきたもの――――浮遊する、巨大な都市へ向かって。
彼の瞳は、その都市が受ける夕陽の光を映し、なおのこと赤く染まるのだった。
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