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約束の木の下で
ずっと待ってる。
約束の木の下で。
☆
凍えそうな季節なのに、ひとりだけコートを着ていない。
それは学校帰りだったから。五時間前まで過ごしやすい天気だったの。
見上げれば私を照らす眼差し。
だから、負けないくらい笑顔。
制服はいい。
だって、私センス悪いもん。
だからデートの時はいつもそう。
恋の色をした大きなリボンが、チャームポイント。
風が吹けば、さっき整えたばかりの前髪がグシャグシャ。
制服のポケットから携帯用の小さなクシを取り出し、セミロングの髪を整える。
(透くん、まだかな)
スクランブル交差点の上空の庭にある約束の木の下で、私はずっと待っている。
(透くんが来るまで待つもん。私、まだ待てるもん!)
☆
お日様とこんにちはするのは、これで何度目だろう。
でも、いいの。
(私の世界に夜はないから)
透くんを愛してる自分自身を信じてる。
もうすぐ二度目の冬がくる。
いつでも私、ドキドキしてる。
逢いたくて、たまらないの。
この笑顔を見てほしい。
☆
透くんのこと思うと、それだけで溶けてしまいそうになる。
そんな世界は消えることがなかった。
でもね、ほんとは知ってるの。
透くんの新しい彼女のことを。
とても素敵な笑顔を。
(……フラれたんだ、私)
何も言われないままは淋しいけど、それでもふたりを憎まない。
☆
(私、駄目だ)
新しい恋なんてできなかった。
(私を選んでくれてたら……)
おんなじ雪に震えられたね。
☆
どこからだろう?
泣き声が聞こえる。
とても悲しくて、愛おしむような声。
ふと傍らを見ると、約束の木の下に透くんの姿があった。
(え?)
「今でも……忘れられないんだ。あの日のことが、伝えられなかったことがずっと」
約束の木を見上げ、震えながら吐露する透くんの隣には、眉を寄せた女の子。
「僕がもっと早く着いてれば、キミを守れたかもしれないのに」
透くんの手には、りるへと記された真っ白な手紙。
「だけど、もう……指輪は、りるにしてあげられない……」
女の子を振り返り、哀しげに微笑む透くんを見て思う。
「今日で最後だ。彼女のこと、もう見なきゃいけないって……思うから」
幸せにするからという意思と私との別れを、理解しなきゃいけないって。
ふたりに声は届かない。
どんなに愛してるを伝えても。
帰れないんだ……。
向き合おうと思った。
彼が背を向ける前に、約束の木の下に添えた手紙を手に取る。
震えた。
その手紙は、透くんの涙でグシャグシャで、こう記されてあった。
『キミ以上に愛するから……』
(そっか)
(私はもう、ここにいない)
☆
ようやく思い出せた。
見ないようにしてた。
私が交通事故で死んでいたこと。
透くんは、透くんを一生懸命支えてくれた女の子に恋をしたんだ。
(私、選ばれなかったんだと思ってた)
なのに。
(どうしてあんなに愛した声で泣いてたの……)
私、今でも。
(透くんの……)
(……真っ直ぐなところが好きだよ)
私の為にじゃなく、ふたりの幸せのために生きてほしい。
だから、笑顔を残すよ。
(愛してくれて、ありがとう)
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