バタフライ効果

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────さま。  お……さま? 「──お客様?」  声に呼び戻されたように、加賀がはっと意識を取り戻す。行きつけの店の、いつもの席。目の前には日向が不思議そうな顔で座っていて、テーブルの傍には店員が首をかしげて立っている。 「ご注文は?」  店員にそう言われ、自分の手にメニューが握られていることに気付く。 「ひ、日替わり定食で」  加賀が慌ててそう告げると、待ちくたびれたといわんばかりに店員は厨房へと足早に去っていった。 「どうしたんだよ? ボーっとして」  日向が心配そうに声をかける。 「いや、なんでもない」  加賀は深いため息を吐いて、メニューを元の場所に戻す。そして 「ちょっと世界を救ったところ」  と少し自慢げに言った。 「なんだそれ。熱でもあるんじゃねーの?」 「かもな」  一言そう返して、加賀は窓から外を見渡す。眼前はビルの灰色が広がり、頭上には青空が広がっていた。無機質で単調的だが、どこか懐かしく感じられる風景に、加賀が微笑んだ。 「お待たせしましたー」  店員が加賀と日向の定食を運んでくる。 「お先、焼鮭定食です」 「お。キタキタ」  と日向は割り箸を二膳とると、ひとつを加賀へ差し出した。 「そして、日替わり定食です」  そう店員から差し出されたプレートに乗っていたのは、  焼きたてで、いかにも美味しそうな  ──焼鮭定食だった。
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