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更に数か月経った頃。加賀は同じ流れでコンビニへと足を進める。お茶を手にして、おにぎりの棚まで来たのはいいが、そこに「シャケ」の名を冠しているものは無かった。
いや、むしろ、シャケと名の付く物だけがぽっかりと無い。
「……売り切れか」
加賀はツナマヨで妥協して、店を出る。店のポスターには「イチオシのシャケ!」と書いてあるのに、シャケおにぎりだけないことに、加賀は少しへそを曲げた。
ふと、加賀が辺りを見渡すと、ビルの灰色よりもオレンジ色が目立っているような気がした。
「よ、加賀」
同僚の日向が加賀の肩を叩く。
「日向。商談帰りか?」
「ああ。これから飯でもどうだ」
「そうだな。いつものところにするか」
2人は行きつけの定食屋へと足を進める。
サラリーマン達でにぎわう店内の一角に腰を下ろすと、いつもの店員が注文を取りにやってきた。
「ご注文をお伺いします」
「俺、焼き鮭定食で!」
日向が間髪入れずに笑顔で告げる。これもいつも通りだ。しかし、店員の顔は少し申し訳なさそうだった。
「すいません。シャケ切らしちゃったんですよー」
「えぇ!? マジかよ、好物なのに……」
申し訳ありません、と店員が深々と頭を下げる。
「んー、じゃあ仕方ない。日替わり定食で」
「俺も、日替わり定食」
「はい! 日替わり2丁ー!」
店員はそう声高に叫びながら、厨房へと戻っていった。
「シャケ切れなんて、珍しいな」
日向が残念そうに呟く。
「コンビニでも、おにぎり、シャケだけ無かったんだよ」
加賀の言葉を聞いて、まじかよ、と日向も声をこぼす。
「ここにきて、鮭ブームきたのかあ?」
日向が不満そうに口をとがらせると、日替わりの生姜焼き定食が持ち運ばれてきた。二人とも手を合わせて箸を進める。加賀は生姜焼きを口に含むと、ふと窓の外を覗き込んで小さくつぶやいた。
「……こんなに、オレンジだっけか?」
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