バタフライ効果

「バタフライ効果って、知ってるか？」

　昼休みになり、車や人々で騒がしいオフィス街。行きつけの定食屋への行きすがら、同僚の日向が話しかけてきた。
「なんだって？」
　突然の一言に、加賀が聞き返す。
「バタフライ効果。知らねぇ？」
「なんだそれ」
「『蝶の羽ばたきが、巡りめぐって遠くの竜巻になる』的な。小さな影響が大きな結果になる、的な」
　つまり、風が吹けば桶屋が儲かる、みたいな話か。
「ふーん」
「なんだよー。興味なさそうによ」
「いや、実際興味ないから」
「つれねぇな」
　そんな他愛もない会話をしているうちに、定食屋へ着いた。昼過ぎ故に混雑しているが、ここは常連が多いのか、よく使っているテーブル席をあてがわれる。いつもの席に着き、オーダーを告げる。
「ご注文、お伺いします」
「俺、焼き鮭定食で」
　日向が即座に答えた。いつもと変わらない、定番の注文だ。日向は来るたびに、決まって焼き鮭の定食を頼んでいた。
　さて、俺はどうするか。と加賀もメニューに目を落とす。