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その後何人かのカンパニー関係者と挨拶して軽く談笑したが、
アルコールを飲めない彼女にすれば時間が経つにつれホールの空気が澱んでくる気がする。
廊下に出るとつきあたりの出窓が開いており夜空に月がかかっていた。
「キレイ…」
出窓にもたれるようにして吹き込んでくる風にあたっていると足音が近づいてきた。
「マドモアゼル」
声に振り返ると老給仕が小ぶりのワイングラスをささげ持ってきた。
「ジンジャーエールでございます」
「ありがとうございます」
「先程は大変失礼をいたしました」
深々と頭を垂れる彼の眼には何故か涙があった。
「あの…」
「申し訳ございません。
ある人とあなたが大変よく似ていらっしゃったので…」
「そうでしたか」
彼の娘か孫の事かと麗奈は思った。
白いハンカチで涙を拭った給仕は素早く眼鏡をかけ直して言った。
「夏といっても夜風は冷えます。
肩掛けをお持ちしましょうか」
「いえ、
もう中に戻りますので」
答えると彼は再び頭を垂れて去っていく。
その時の会話は何故か麗奈の心に強く残ったのだった。
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