海になりたかった雲

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 男は答えに詰まった。  大学に在籍はしている。だが、それは夢を叶える為ではなく、安定した未来の為だ。  夢は……  俺の、本当の夢は…… 「……まだ叶ってない夢があるって、幸せな事なのかもしれないな」  男の口もとに、やわらかな笑みが浮かんだ。 「叶えたい夢があって、いつか叶えようって、叶うように頑張ろうって、夢があれば、ちゃんと人生を生きられるっていうか……何もないより、夢があれば……それがどんなに大きかろうと、小さかろうと……」  何を言っているのか、自分でも解らなくなってきた。ただ言葉が、つらつらと唇から零れ出る。  右側の男は眠ってしまったのか、返事がない。  なんだか自分まで眠くなってきた。  霞んできた視界に、まばゆい金の光が射し込んできた。心待ちにしていた、あたたかな太陽の光だった。  だが、半分閉じられた男の瞳は光を映さず、寒さも、あたたかさを感じる事もなかった。  夢を持った男の命が、またひとつ、消えてなくなった。  夢を持った男の命は、小さな金の(しずく)となり、昇ったばかりの太陽に溶けて消えた。 [了]
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