16人が本棚に入れています
本棚に追加
男は答えに詰まった。
大学に在籍はしている。だが、それは夢を叶える為ではなく、安定した未来の為だ。
夢は……
俺の、本当の夢は……
「……まだ叶ってない夢があるって、幸せな事なのかもしれないな」
男の口もとに、やわらかな笑みが浮かんだ。
「叶えたい夢があって、いつか叶えようって、叶うように頑張ろうって、夢があれば、ちゃんと人生を生きられるっていうか……何もないより、夢があれば……それがどんなに大きかろうと、小さかろうと……」
何を言っているのか、自分でも解らなくなってきた。ただ言葉が、つらつらと唇から零れ出る。
右側の男は眠ってしまったのか、返事がない。
なんだか自分まで眠くなってきた。
霞んできた視界に、まばゆい金の光が射し込んできた。心待ちにしていた、あたたかな太陽の光だった。
だが、半分閉じられた男の瞳は光を映さず、寒さも、あたたかさを感じる事もなかった。
夢を持った男の命が、またひとつ、消えてなくなった。
夢を持った男の命は、小さな金の雫となり、昇ったばかりの太陽に溶けて消えた。
[了]
最初のコメントを投稿しよう!