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宿り木
環はポケ~っとスマホを眺めている。
あれから三日、黒住からの連絡はない。
忙しいのだろう、と思っている。
相手は売れっ子作家だ。
だけど。
メッセージの一つもくれてもいいのに。
小さなため息が漏れた。
それとも。
喧嘩越しでくってかかるような、過保護な幼なじみが貼りついている高校生なんて、めんどくさく思われてしまったのだろうか。
或いは。
また連絡する、とそう囁いてくれたのは、単なる社交辞令だったのかも。
そう思うと、泣きたくなるぐらいせつない。
連絡のない三日間、環は黒住のことしか考えられなくなっていた。
今日何度めかの深いため息を漏らす環を、良祐はこちらもため息をつきながら、遠巻きに眺めていた。
環とは、これまでの長い付き合いの中で、数えきれないほど大小様々な喧嘩をしてきたけれども、今回初めて、口も利いてくれないほど怒っている。
黙って後をつけてくるとかマジサイテー。
黒住先生に変な言いがかりつけて意味わかんねえし。
お前とはしばらく口利きたくねえから話しかけてくんな。
そう言われて、もう三日だ。
環はまだ許してくれない。
そして、もうずっとあんな調子でスマホばかり眺めている。
黒住からの連絡を待っているのだろう。
あんなチャラいナルシ、その場の勢いでテキトーなこと言うに決まってるのに。
環のことだって、純真そうな可愛いファンがいたから手軽に食っちゃおう、ぐらいの感覚だったに違いないのだ。
それなのに。
環にあんなせつなそうな顔をさせるなんて、許せない。
ため息をついてスマホを眺める環は、今までの環とはどこか違う。
言うならば、固く閉じていた蕾が緩んで、今にも綻びそうになっているような。
色気、とでも呼べるような何かをまとって、良祐の知らない表情を見せていた。
そのことが、更に良祐に漠然とした不安を抱かせるのだ。
環が、このまま良祐の手の届かないところへいってしまいそうで。
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