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『少し忙しかったから、連絡が遅くなってすまなかった』
ずっとスマホの画面を眺めていたから、待ちに待っていたそのメッセージが届いたとき、環は飛び跳ねたくなるぐらい嬉しかった。
『もし、何も予定がなかったら、これから会えないか?』
メッセージはそう続いた。
環は、急いで指を滑らせる。
『全然大丈夫です』
『会いたいです』
少し迷って、最後に黒住の作品の吸血鬼スタンプをそっとつけ加えた。
特に文字はなく、ハートマークが吸血鬼の周りにたくさん飛んでいるスタンプだ。
すると、黒住からもスタンプが返ってきた。
同じ吸血鬼のスタンプで「血ぃ吸っちゃうぞぅ」
と言う文字を背景に「ガオ」というポーズをしているものだ。
どういう意味だろう。
特に深い意味はないのか、それとも。
――環を、そういう意味で、食べてくれるのだろうか。
そんなことを思ってしまう自分が、すごく下品ではしたない気がして、環は思わず一人頬を上気させる。
黒住と環は、男同士なのに。
そして、黒住はあんなにかっこよくて優しくて、名の知れた作家だ。
どんな美女でも選び放題だろう。
小学生にしか見えないようなダサい男子高生なんて、そんな目で見るはずもないのに。
黒住からは、そのスタンプの意味に触れることなく、『◯◯駅前の××というカフェで待っている』という短いメッセージがあって、それきり環のスマホは沈黙する。
環も『りょ』というスタンプをポンと返して、黒住の待つカフェを慌てて検索した。
とにかく、次の駅で降りて、地下鉄乗り換えて…とルートを頭に入れる。
そして、ハッと思った。
チラリと、同じ車輌に乗っているはずの幼なじみの姿を探す。
二つ向こうのドアのところにもたれて、良祐もこちらを見ていた。
後をつけたことを、本気で怒ったばかりだ。
まさかついてくるとかないよな?とは思うものの、つい、睨むような視線になってしまった。
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