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それから、環と黒住はまた、とりとめのない話だけで数時間をあっという間に過ごしてしまった。
黒住は、当たり前だが家の中ではサングラスをしないで過ごしているらしいので、環は思いきって、普段どおり外したままでいて欲しい、とお願いしてみた。
君が怖がらないでいてくれるなら、と彼は快くそれを受け入れてくれたから、その綺麗な黄金の瞳を直接見て会話できることが、環は嬉しくて嬉しくて仕方なかった。
黒住は職業柄なのか、どんな話題にも詳しくて、先日とは違って彼のほうからもいろいろな話題をふってくれ、時間を忘れるほど楽しくて。
気がついたら、夜の9時を回っていた。
「しまった、もうこんな時間だ…親御さんが心配するな。送るから今日はもう帰ったほうかいい」
黒住が、時計を見て、何故か少し焦ったようにそう言ったけれども、環は。
「親には連絡しておくから、大丈夫」
この数時間で、敬語をやめるぐらいには、彼らはくだけていた。
「だから、カイ…その、迷惑じゃなかったら、もう少しだけ」
環の、その控えめなおねだりに、黒住は明らかに困った顔をした。
「夜が更ける」
彼は、唐突にそう言った。
「環。これ以上ここにいると、もう少し、じゃ済まなくなる」
私は、自分で思っていた以上に、君を大事にしたいらしい。
その黄金の瞳が、ゆらり、と揺らめいた。
「頼むから、今日はもう……」
「いいよ、もう少し、じゃなくても」
遮るように早口に、環はそう言った。
黒住の口から、帰れ、と言う言葉を聞きたくなかったのだ。
「まだ、ここにいたい、カイ」
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