雨と晴

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雨と晴

 あいつだけは気に入らない。  窓の向こうでは雨脚がより強まっていた。風は無く、垂直に地を穿つ様を俺は眺めていた。窓際特権。少し開けてやれば、冷たい空気と雨音が無遠慮に上がり込む。この乱雑なのに一定のノイズが、教師の声を掻き消してくれる。  授業なんか、入ってこなかった。先刻目撃した、あいつのせいだ。なんの権限で彼女を引き留めた。向かい合ってどんな声を聴いた。あの銀縁眼鏡がいかにも澄ました感じで、余計に逆撫でる。  教科書の、それも見当違いなページは、俺の手の中でくしゃくしゃに痛め付けられた。その手のひらに刻まれていた三日月の痕はまた、焼き直される。
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