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この喫茶店に来るようになってどれぐらい経つだろう。
男はいつものように、喫茶店のマスターに挨拶すると、ほとんど指定席になっている。奥まった席に向かった。
彼女を呼び出したのは先週のデートの終わりだった。
「来週。話したいことがあるから、あの喫茶店で待ってる」
男の真意を読み取るかのように、彼女は笑顔で「はい」と答えた。
彼女と付き合い始めて2年。そろそろプロポーズをと考えていたところだった。
「いつもの時間でいいの?」
「うん、いつもの時間で」
毎回待ち合わせに使っている、彼女の家の近くの喫茶店。
そこには初老のマスターが1人で切り盛りしている。
「今日は気合が入ってるね」
毎週来る男の様子がいつもと違うことに、マスターは気が付いた。
「やっぱり分かりますか」
「うん、顔に『緊張している』って書いてある。2年前に初めてきた時とよく似ている」
驚いた、マスターは2年前のことまで覚えていたのだ。
「すごい記憶力ですね」
「それが接客ってものだよ」
マスターはにっこりと笑うと、アメリカンコーヒーを入れ始めた。
「これ、私の奢り。今日は頑張ってね」
ほかほかのアメリカンコーヒーを差し出され、緊張に震えていた男の顔に表情が戻った。
「ほら、お姫様が来たよ」
喫茶店の外に、彼女の姿が見える。男の勝負の時は迫っていた。
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