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第11話 城
馬車に乗せられて暫く経つ頃、漸く車窓から城の城壁が見えてきた。
城壁を越えると、立派な造りの城が見える。此方に来て初めて立派なものを見た気がした。
「降りろ。殿下がお待ちだ。ついてこい」
兵士に案内され、城内を歩いていく。
流石に城の中は広かった。
しかし中の広さの割にやけに人が少ない。
少し歩くと、重厚な扉の前で兵士が立ち止まった。
「ここだ。中に入れ。質問されるまで何も話すな。わかったな」
一方的にそう言われ、兵士が扉を開けると背中を押された。
中に入ると、殿下とその両隣に貴族らしい出立ちの男が2人立っていた。
1人はダークブラウンの髪を短く刈り上げ見るからに仕立ての良い青いジャケットを羽織っている。
もう1人は、ダークブラウンの髪を伸ばし一つに括っている。こちらはジレとキュロット姿で軽装だった。
しかし目がいくのは、やはり殿下の赤いジェストコールだ。
金の刺繍と散りばめられた宝石で目がチカチカした。
そうこうしていると俺は兵士に跪か
された。
「来て早々何だが単刀直入に聞く。
何故彼処に居たんだ?一体何をしていた?」
突然の殿下の言葉にどう答えていいか迷ったが力の事も含めて誤魔化すことにした。
「あそこには...体調が悪くて行きました。
医者がいなくて帰ろうとしていた時に人が来たもので驚いて隠れてしまったんです...」
我ながら苦しい言い訳しか思い付かなかったが、体調が悪いのは本当のことだ。
すると殿下が俺の言葉に続けて質問して
きた。
「そうか…では、患者の様子で気になったことはないか?聞いた話では彼処には疫病患者で溢れかえっていたはずだが」
俺は一番聞かれて困ることを質問され、冷や汗が背を伝う。
……無事に切り抜ける事が出来るだろうか。
「し…知りません。私が来たときには既にあの状態でした。私が知っている事はここまでです」
場の張り詰めた空気に俺は、一刻も早くこの場を立ち去りたくなった。
「ほう...そうか。あと一点気になることがある。お前のその髪の色と瞳の色は生まれつきか?今までに見たことがない。出身はどこだ?」
出身……日本なんて言えるわけもないしどうすれば…
「えっと...旅をしながら各地を転々としてきたので、明確な出身地はありません...」
俺がそう答えると殿下の目が鋭くなる。
「.........そうか。ではお前は我が国の民ではないわけか。」
―― 殿下のその言葉に嫌な予感がした。
そして先程までの口調から一転
酷く冷たい口調に変わる。
「お前には怪しいところが多い。
嘘も下手すぎるしな。こいつが素直に話す気になるまで牢屋にでも入れておけ」
それだけ言うと殿下は立ち上り
兵士に指示を出して部屋から出ていって
しまう。
――このまま牢屋に入れられると、彼処には
もう戻れなくなってしまう……
そう思った俺が慌てて、立ち上ろうとした時不意に背後から頭を殴られた。
殴られた衝撃で、只でさえ体調の悪かった俺はすぐに意識が朦朧としてくる。
…そしてとうとう目の前が真っ暗になった。
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