第12話 変化

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第12話 変化

目が覚めると、俺は暗く肌寒い部屋の 中で寝ていた。 起き上がると、頭に痛みが走る。 しかし、ここに着いた時よりは 身体の怠さは幾分かマシになっていた。 辺りを見回すと牢屋の中には俺が今寝ていた簡素なベッドと鉄格子があるだけで他は何もなかった。 鉄格子から外を覗くと牢屋の近くにも見張りは居ない。 「これは簡単に開放されそうもないな... 脱走するしかないか...」 一人そう呟いていると、唐突に上から 声を掛けられる。 「誰が脱走するって?」 発せられた声に驚いて顔をあげると 髪を一つに括ったあの貴族の男が牢屋の前に立っていた。 「で?どうやって脱走するんだ?」 男の言葉に俺は息を詰まらせそうになったが何とか答えた。 「…冗談です。 鉄格子の中からは出られませんよ。 …それより何故ここに?」 「ああ、俺は殿下に言われてお前の様子 を見に来た。怪しい事を企んでないか…」 いうと、男が薄ら笑いを浮かべる。 なんだか随分と性格が悪そうだ…… イケメンなだけに、なお残念だった。 「…怪しいことなんてしませんよ。 それに俺は何も知りません。 あの、もう一度殿下に会わせて貰えますか?」 俺が言うと男は鼻で笑う。 「生憎、殿下はお忙しい方だ。 それに本来お前みたいなやつが会える御方じゃない。」 む…そう言われるとそうだが、簡単には俺も諦めきれない。 しかしその次の瞬間男が以外な事を言った。 「…しかしそれも、お前が協力するというなら、吝かでもないがな」 男のその言葉に俺は目を見開く。 「きょ...協力とは?」 「見れば分かる。取り敢えずここから 出そう。ついてこい」 男はそう言うとポケットから鍵を取り出し 牢屋の扉を開ける。 一体なにが狙いなんだ……。 だがしかし、今の俺に選択の余地はなかった。 牢屋から出て、男の後をついていくと、 部屋に通される。 部屋の中は、派手ではないが質の良いものが置かれているのが庶民の俺にでも分かった。 部屋の中を見渡していると、ふいに後ろから声を掛けられる。 「突っ立ってないで、座ったらどうだ?」 その声に振り向くと、いつの間にか殿下が後ろに立っていた。 「殿下...」 俺が跪こうか迷っていると気にせずに殿下が話を続ける。 「...名前...名前を教えていなかったな。 私の名はクラウスだ。そう呼べ。お前の名前はジュンだったか?あの子供がそう呼んでいたな」 「あの...クラウス殿下。...協力してほしい事とはなんですか?」 「ああ...お前がもし、治療院の患者を治した件に関わっているのなら俺の身体も治せるはずだと思ってな」 殿下はそう言うと、突として腕を捲った。 すると、捲ったその腕に疫病患者と同じ発疹がいくつも出来ていた。 「村に視察に行ったときに感染してしまったらしい。あそこに行ったのも王宮の医者には頼れなかったからだ。まさか逃げ出しているとは思わなかったが...私には時間がない」 最初に見たときは気づかなかったが、彼の体調は酷く悪そうだった。 動くのもやっとなのかもしれない。 病気の事を考えると、王宮に人が少ないのも察しがつく。 周りに感染させないためか……。 気丈に振る舞ってはいたが彼も1人で苦しんでいたのだろう。 「……分かりました。俺が…いえ私が治します。」
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