第13話 王宮

1/1
234人が本棚に入れています
本棚に追加
/70ページ

第13話 王宮

俺の言葉を聞いた矢先、殿下が頭を下げる。 「礼を言う」 その行動に俺以上に貴族の男が驚いた顔をした。 それもそうだろう。一国の王子が見ず知らずの人間に頭を下げるなんてそうそうあることではない。 ――すると貴族の男が俺を睨んだ。 その視線を受けて俺はすぐに殿下の 頭を上げさせる。 「クラウス殿下どうか顔を上げて下さい。顔色が良くないです。どこか横になれる場所はありますか?」 「ああ。そうだな」 殿下が言うと貴族の男が身体を支えて寝室に移動した。 暫くして、寝室から戻ってきた貴族の男が俺に話しかけてきた。 「おい。お前どうやって治すつもりだ?」 その男の顔を見て俺は今更だが、名前を聞いていない事に気がついた。 いつまでも、貴族の男じゃ分かりにくいし、一応聞いておくか…。 「その前にお名前を伺ってもよろしいですか?」 「あぁ...私の名か。教えなかったか?」 男のその言葉に思わず俺は 気抜けした。 ……案外抜けているな、この人も…。 「私の名前は、イリスだ。殿下の護衛 兼 親友といったところだな」 「おい。聞こえているぞ。なにが親友だ。お前とは悪縁で繋がっているだけだ」 殿下のその突然の声に俺は微かに目を 見開く。 ここから寝室までは少し距離があるというのに聞こえていたとは彼は地獄耳なのだろうか。 イリスに急かされて、一緒に寝室に向かうと起き上がろうとしていた殿下を見てイリスがたしなめる。 俺はイリス促されて殿下が寝ている、ベッドの脇に膝を折った。 「殿下失礼します。」 彼に断って俺はそっと手を握る。 軽く深呼吸して治療院の時のように力の 加減を間違えないよう心を平静に保つ。 するとそんな俺の様子を怪訝に思ったイリスが再び声をかけてきた。 「おい。何をしている。そんなことで本当に殿下が治るのか?」 「信じられないかもしれませんが 見ていてください。」 俺はゆっくりと目を閉じ己の中の意識を 力の流脈に集中させた。 すると俺の中からクラウス殿下に力が流れていくのが分かる。 目を開けると、殿下の腕に出来ていた、発疹は綺麗に消え去っていた。 「クラウス殿下お加減はいかがですか?」 「ああ、信じられん...先程までは身体が怠くて仕方なかったのに今は見違えるほど軽くなった」 「そうですか。お力になれて良かったです。」 「それより一体どうやったのだ?」 殿下のその言葉に俺は少し躊躇ったが、今はただ正直に話すことにした。 「......私には不思議な力がありまして その力で人を癒す事ができるのです。」 「まさか、そんなことが可能だとは。恐れ入った。」 「殿下、私もこのような力初めて見ました。」 「...良くぞ教会に見つからずにいてくれた。もし見つかりでもしていたら首を跳ねられていたかもな。」 殿下のその言葉に俺はぎょっとする。 ミヤから話は聞いていたが、まさか首を跳ねられるところまでいくとは思っても見なかったからだ。 「あの、クラウス殿下、何故教会が私の 首を?」 俺の言葉に殿下がゆっくりと口を開いた。 「...お前の力は教会にとって目障りなのだ。癒す力を持った者が現れたと民が知れば教会よりもお前を崇める者が出てくるだろう。王室でさえ、教会の力を押さえる事ができない。それほど強大なのだ」 「しかし私はついていたな。教会よりも先にお前を見つける事が出来た。それでお前に頼みがあるんだ。この国を救うために私に力を貸してほしい」 矢継ぎ早に話す殿下の言葉について いけず俺は戸惑う。 「…それは…どういう事ですか?」 「先程、王室でさえ押さえる事ができないと言っただろう。情けない話だがこの国の王、私の父上は教会の言いなりだ。 神器が奪われてから父上はおかしくなってしまった。私はこの状況を変えたい。苦しんでいる民のためにも。 しかし…私は教会に疎まれている命さえも狙われるくらいにだ。私が側で動かせる人間は少ない。そこでお前に助けてほしい」 正直言うと、この国の人が困っているのなら助けてあげたいが、そうするともうミヤに会う事はできないかもしれない。 「あの...少し...考えさせて下さい」 俺が言うと殿下は沈黙したが、やがて口を開いて言った。 「...わかった、お前には王宮に部屋を用意する。そこで休むといい。イリス案内してやれ」
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!