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第17話 神器の行方
古い石造りの壁に描かれた絵をじっと観察する。
金色の瞳を持ち、黄金に輝く髪を腰まで伸ばした若い男性が描かれている。右手には、背の高さ程の光り輝いている杖のような物を握っている。もしかしたらこれが神器なのだろうか。
「また此処にいたのか」
扉の方から殿下の声がする。
「...ええ、この絵を見ると懐かしいような、どこか胸が苦しくなるような気持ちになるんです。何か大切な事を忘れてるような...それが何なのか知りたくて...」
「それで答えは見つかりそうか?」
「いえ、まだ何も。ですが、神器が消えたのが始まりならそれを辿る必要があります。」
「ああ、俺もそのつもりだ。」
殿下の言葉に振り向く。
「元々、視察もそのためだった。そこで疫病が流行りこんな事態になってしまった。だがそれも終息しつつある。今が再起の時だ。」
「殿下はどこへ向かうつもりだったんですか?」
「隣国、リスカイアだ。神器は必ずそこにあるはずだ。2日後に発つ、そのつもりで準備をしておけ」
この国を離れる...。何かあれば、もう会えないかもしれない。
「クラウス殿下、発つ前に会いたい人達がいるんです。お願いします。」
「そうか...ああ、分かった。手配しておく。今夜はもう遅い休め。」
「感謝します。」
殿下はそれに頷くと、部屋から出ていった。
部屋に戻るために、絵に背を向け扉に向かおうとしたときだった。
一瞬、後ろから引っ張られる様な感覚がした。
振り向くと、絵はもとのまま何も変わらない。
何だか気味が悪くなる。何も変わらない筈なのにさっきと違い、こちらをじっと見られている気がしてならない。
怖くなり足早に部屋を出る。
部屋に戻ると、アメリアさんが、暖炉の前に寝具を置いて布団を暖かくしておいてくれた。
その光景にホッとして先程の恐怖が薄れていく。布団に入ると安心したせいか、すぐ眠りに落ちた。
ここは夢の中だろうか。辺りが暗くなにも見えない。暗闇の中から声がする。
『ア...キ.........ス』
誰かを呼ぶ声がする。だが砂嵐の音のように途切れ途切れで聞き取れない。
『な...ぜ............許せ...』
段々と声が遠ざかっていく途中で、最後の一言だけがはっきりと聞こえた。
...許せ と。
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