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第19話 旅立ち
昨夜、殿下に言われて薄明のうちに城を出発することになった。
リーズノーゼまでは小一時間かかる。
「ジュン様、馬車の準備が整いましたのでご案内致します。」
「ありがとう」
随行するのは、殿下と俺を除いて5人。俺達の馬車に続いて付いてくる手筈らしく、馬車が2台ある。
俺の荷物は早々に、アメリアさんが運んでおいてくれたらしく、身が軽い。
先頭の馬車を見ると後ろの馬車よりも一回り大きくて驚いた。理由を聞くと寝台がついているからだそうだ。
「アメリア、色々と親切にしてくれてありがとう」
城に居たのは短い間だったのに、此処から離れるのは寂しく感じる。
「いいえ、ジュン様のお世話を出来て光栄でした。道中、お気をつけて行ってらっしゃいませ。」
馬車に乗り込むと、殿下が椅子に腰掛けながら書類にサインをしていた。
この馬車には、机と椅子もついているみたいだ...。
殿下が俺に気づき顔をあげる。
「ジュン気分はどうだ?昨夜は顔色が優れなかった様だが...」
昨夜は、部屋に戻った後、気分が悪くなってしまった。正直あの痛みを思い出すだけで、ゾッとする。
「私はもう大丈夫です。殿下こそ昨日は部屋に戻られなかったそうですが、お身体は大丈夫ですか?」
「ああ、出発前に片付けておく書類が山積みだったからな。これもいつもの事だ。街につくまで少し時間があるから私は寝てくる」
そう言うと書類を片づけて寝台の方に移動した。
馬車の窓から外を覗くと城下町に人が行き交っているのがよく見える。
人が多い分、リーズノーゼよりも華やかだ。
背後の城が遠ざかっていくのを見ながら、馬車の揺れに誘われるように目を閉じた。
馬車の不規則な揺れで目が覚める。
軽くあくびをして瞬きすると、いつ起きたのか、殿下はまた書類とにらめっこしていた。
「起きたか、随分気持ち良さそうに寝ていたな。そろそろ街に着くぞ」
ハッとして外を見ると、確かにリーズノーゼの近くまで来ていた。街で過ごした日々が甦ってくる。
馬車から降りる前にフードを被り外に出る。
やはり城下町に比べ人通りがあまり多くない。
「私は馬車で待っている。護衛も離れた所から置いておくから安心しろ」
殿下なりに気を遣ってくれたらしい。
「ありがとうございます。行ってきます!」
初めて来た時の事を思い出しながら、道を歩く。暫く進んで細い路地に入ると見覚えのある家が見えた。
早く会いたくなって小走りになる。
家の前まで着くと、軽く深呼吸して扉をノックする。
しかし何度かノックをするも誰も出ない。
困り果て仕方なく畑の方に向かうと、此方にもいないようだった。
仕事場の人の話では、家族で少し前に出掛けたらしく行き先は分からないらしい。
正直、会えると思っていただけに、ショックが大きかった。諦めて馬車に戻る。
馬車に戻ると、殿下が驚いた顔をする。
「随分早かったな、積もる話でもあると思っていたが...」
「いえ、実は家族で何処かへ出掛けたらしく会えなかったんです。すみません」
「そうか...別に謝る必要はない。お前が会いたいと思う限りきっといつでも会える筈だ」
「...そうですね。その時まで楽しみはとっておくことにします。」
遠ざかっていくリーズノーゼの街を見ながら
ミヤの顔を思い出す。最後に見たときは泣きそうな顔をしていた。
...今はどうか笑っていてくれ...
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