第4話 神器

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第4話 神器

「そーだよ。神様!国が危機に陥ったとき には地上に降りて助けて下さるって。」 そう言うとミヤは1枚の絵を俺に見せてくれた。 そこに描かれていたのは、長い金の髪に 金色の瞳をした絶世の美丈夫だった。 「えっと俺がこの神様に似てるってこと? 冗談だよね?..」 そう言うとミヤが顔をムッとさせる。 「嘘じゃないよ!ジュンお兄さん、自分の顔見たことないの?」 この娘は何を言っているんだ……。 この26年間ずっとこの平凡な顔で過ごしてきたんだ。 この絵の神様と自分を見間違えるはずが ない。 ―――依然として疑い続ける俺にミヤが溜め息をついて鏡を手渡してきた。 すると次の瞬間、俺は手渡された鏡に映る自分を見て絶句した。 その鏡には先程見た、絵の神様がそのままそこに映っていた。 「……えっ?嘘…だろ?」 俺の顔で以前と同じなのは髪の長さだけで瞳の色も眼の色も金色だった。 俺の驚き様を見たミヤが怪訝な顔を見せる。 「どうしたの?ジュンお兄さんの顔でしょ?」 いや、これは…これは俺の顔じゃない。……誰なんだお前は。 以前の俺の顔に満足してた訳じゃないが、26年間あの顔で過ごしてきたんだ。 今更、顔が変わる事なんて、そうあることではない。 どうにか答えを探しだそうと黙りこんでしまった俺を心配して、ミヤが話しかけてくる。 「ジュンお兄さん...あの、お腹空いてない?もうすぐお父さんとお母さんが帰ってくるから私すぐにご飯作るね!」 そう言うと直ぐにミヤが台所へ駆けていった。 そうしてしばらく俺はその場で固まっていたが、何時までもうじうじと考え込んでいることが情けなく思えてきて、ミヤを手伝う事にした。 「…俺も何か手伝うよ!」 「ジュンお兄さん、その…もう大丈夫なの?」 「ごめん。もう大丈夫だよ、それより俺にも何か手伝わせて」 「そっか……じゃあ、こっちはもう出来るからお兄さんはそこの戸棚から器を出してきてくれる?」 「うん。わかった」 そう言って、戸棚へ向かい器を出そうとしたその時、扉が開く音がした。 「ただいま~ミヤいい子にしてたか?」 扉の方に目を向けると背の高い中年の男性が立っていた。そしてそのすぐ後ろにはミヤによく似た綺麗な女性が立っている。母親だろうか。 すると、声に気がついたミヤが慌てて台所から出てくる。 「ミヤ、ごめんね遅くなって」 「おかえりなさい。今日のお仕事はどうだったの?」 「あぁ、この日照りのせいか、作物の育ちが悪くてね...でもどうにかするから、お前が気にすることないよ」 男性がそう言うと、ミヤは力無さげに頷いた。 すると突然ミヤの母親が俺に視線を向ける。 「あら?この方はどなたかしら」 「あっお母さん、この人はジュンお兄さんって言って、外国からきた人なんだよ。 困ってたからお父さんの服を貸してあげたの」 ミヤがそう説明した後、父親が頬笑みながら俺に話しかけてきた。 「そうかい。ごめんねこんなおじさんの服しかなくて」 「いえ、あのお邪魔してます。 それに服も貸していただいて、ありがとうございます。」 俺は緊張しながらも言って頭を下げた。 「ジュン君だったかな?外国って聞いたけど今はどこも国同士で戦争が起きているから大変だっただろう。困った時はお互い様だ。 ゆっくりしていきなさい。」 外国という俺の事情を汲んでくれたのか あまり詮索はされずに済んだ事に胸を撫で下す。 「はい。ありがとうございます。 俺に出来ることならなんでも手伝いますので、よろしくお願いします」 俺がそう答えるといつのまにかミヤが食事の準備を終らせテーブルに着こうとしていた。 「ジュンお兄さんもお父さんたちも早く座って座って」 言われるままに席に着くとその芳しい匂いに喉が鳴る。ミヤが作ったのは、見た目はシチューに似た、とろみのあるスープのような物だった。 テーブルの上の籠にはロールパンによく似た物も置いてある。 俺はスプーンでそのスープを口に運び食べる。すると思った通り、それはシチューに似ていて濃厚で美味しかった。 黙々と食べているとミヤが俺の顔を見つめ謝ってきた。 「...あんまり具が入ってなくて ごめんねジュンお兄さん」 「いや、とっても美味しいよ。ありがとう ミヤ」 俺がそう答えると、ミヤの母親が深く溜め息を吐いて話をつづけた。 「今は隣国と、戦争中で食べ物が手に入りづらいの。せっかくのお客様なのにごめんなさいね」 深刻な話に俺がどう返答しようか迷っているとミヤの父親が唐突に声をあげる。 「そういえば!私たちの名前を教えてなかったね。いやぁ!うっかりしてたよ」 突如そう言いながら笑いだした父親と それを聞いて思いだしたかのように苦笑いする母親をみて何となく気持ちが楽になった。 「えっと私の名前は、アリサで夫の名前はジーク。ごめんなさいね。教えるのが遅くなってしまって。」 その後、唐突に自己紹介を始めた アリサさんとジークさんに続き改めて俺も挨拶をしなおした。 *** 食事を食べ終わるとジークさんは、何も知らない俺のために、今この国で起きている事実を教えてくれた。 その昔、この国アスカラント王国と隣国リスカイア王国は同盟を結んでいた。 しかし、リスカイア王国の者がこの国の象徴でもあり宝重でもあった神器をアスカラントから略奪した。 その後、それが発覚すると同盟はすぐに破綻し戦争が始まったそうだ。 ――その後も色々と質問したが正直、話が複雑過ぎて半分も分からずじまいに終わってしまった。 そうこうしているうちに、夜が更けてきたので明日街を案内してくれる約束を取り付けてからジークさんが寝床に案内してくれた。
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