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第6話 奇跡
家に戻った俺は、例の力が本物なのか確かめるために、こっそりと庭の片隅に咲いて
いた枯れた花で実験してみることにした。
花に指先を近づけそっと触れたそのときだった。
俺の指先から花へと力が並々と流れ伝わってゆく。
そして俺の力を吸収した花は見る見ると、黄色い綺麗な花に色づいた。
これで俺は確信を得ることができた。
この力は間違いなく本物で、上手くこれを利用すれば、ミヤ達家族や街の人々の事も救う事ができるかもしれない。
俺は何も出来ないと思っていた不甲斐ない過去の自分を思い出し、その思いを打ち消した。
翌日、ミヤに案内してもらい枯れかけの
井戸を見に行くことにした。
井戸に着くと、そこには沢山の人たちが
列をなし必死に井戸から水を汲もうとしていた。
しかし、もうすでに枯れている井戸から
はもちろん水を汲むことなどできるわけもなかった。
俺はこの時、国の頂点に立つ者がなぜこの状態の民を助けようとしないのか疑問に思え、それと同時に体の奥底から怒りが湧き出てくるのを感じた。
しかし、そんな俺の怒りが力となったのか突として指先に流れる水の冷たい感覚が伝わってくる。
今の、この状態ならこの枯れ井戸を水一杯にすることも可能かもしれない。
それどころか、先程まで指先だけに感じていた水の気が全身を駆け巡っている気がした。
今なら空からも雨を降らせることができるだろうと、何故かその時の俺はそれに絶対の自信を持っていた。
そして、俺は早速目立たないように井戸付近まで移動し意識を集中させて、そっと井戸の方へ手を向けた。
――そうすると、どうだろう。
次の瞬間、井戸から溢れんばかりの水が湧き出してくる。
急に溢れ出してきた、井戸水を見て驚いた人々が、どっと井戸に近づいて我先にと水を汲んでいく。
喜んでいる人々の顔を一瞥し俺は、次に
全身に駆け巡る水の感覚を掴み、一心にそれに意識を集中させた。
そうすると、ぽつぽつと雨が降りだして
やがてそれは激しさを増す。
空から雨が降ってきたことに漸く気がついた人々が水を汲んでいた手を止め、一様に雨を浴びるように空を見つめ続けていた。
中には膝を折り地面に跪いて両手を合わせ天に祈りを捧げだす者も多くいた。
俺は、少し離れたところから皆と同様に空を仰ぎみながら茫然としていた、ミヤの手をそっと掴み、その場を後にした。
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