第8話 教会

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第8話 教会

翌日、ミヤに起こされた俺はジークさんの畑の様子を再び見に出掛ける事にした。 外に出て道を暫く歩いて行くと、やっと 畑が見えてきた。 畑の近くにジークさんの姿が見えたので 駆け寄って声をかける。 「ジークさん!おはようございます。 あの...畑はその後どうですか?」 「ああ、おはよう!ジュン君。 君のお陰でこの通りさ。ここら一帯 畑の作物が全て復活したよ。しかも最近は定期的に雨も降るようになって、本当にありがたい事だ」 周辺を見渡すと確かに以前来た時には枯れかけていた一帯の畑がジークさんの畑を中心にして作物が溢れんばかりに実っていた。 しかも、以前来た時よりも格段に 実の色づきが良くなっている。 「それで、ジュン君はこの後 どこかへ出掛けるのかい?」 「えっと、街にでも、行こうかと 思っています。」 「そうか...。何でも最近は街で 疫病が流行しているらしい。行くなら十分気を付けなさい」 「分かりました。 ありがとうございます。」 ジークさんから聞いた話を要約すると山を越えた先にある、村周辺で流行していた疫病がこの街に流れ着いてからは街の人々は床に臥せっているか、家に籠りきりになっているかのどちらかだそうだ。 そしていざ街に来てみると、話の通り 人通りが少なかった。 しかし、よく見てみると確かに街の人は 少ないのだが、白い服を纏っている人達の行き交いがやけに多い。 不思議に思ってその様子を暫く眺めていると、ふいに後ろから声をかけられた。 「ジュンお兄さん!」 声に気がついて後ろを振り返るとミヤが 俺に向かって走ってきた。 「ミヤ、来ていたのか」 「うん。お父さんに街に向かったって 聞いて慌てて迎えに来たんだよ。 ほら街には今、沢山の神官様達が来てる から目立っちゃうと危ないし...」 「神官様?」 「そうだよ。あそこに白い服を纏ってる人達が居るでしょ? あれが神官様。街には疫病を治癒しに来たみたい。まぁ、その代わり莫大な料金を 請求されるんだけどね...」 「へー、でもその神官様達は、病を癒せるんだろ?」 俺がそう言うとミヤがぶんぶんと首を 振った。 「完全に癒せるわけじゃなくて、 あくまで少し気力を回復させるだけだよ」 「えっと...それって何か意味があるのか?」 不思議に思って、そう聞くとミヤが 歯切れ悪そうに答える。 「...多分?...やらないよりは... ちょっとはましだと思うよ。... 実際、神器が消えてからこの国の中枢の 大部分を担ってるのは、教会の神官様達 だしね...街の人達も何も言えないんだよ。 それに逆らったとしても兵士に連れていかれるから。 だからお兄さんが街で力を使いでも したら教会にどんな目に合わされるか...」 彼女は話し終えると、肩をブルブルと 震わせた。 話を聞いた俺は、黙っていることが出来なくて素直に今の自分の気持ちをミヤに伝えることにした。 「ミヤ...俺...やっぱり 苦しむ人達を見て見ぬふりはできないよ。 俺が力を使わないと死んでしまうかもしれない。後悔したくないんだ...。」 俺がそう告げると、静かに話を聞いて いたミヤが目を潤ませて言う。 「...絶対に?」 「ああ、ようやく理解できた気がしたんだ。この力はきっとあの人達を救う為にあるんだと思う。」 「...でも...だとしても、神官様達の近くで力は使っちゃダメだよ!」 ミヤが泣きそうな声で訴えかけて来たので 俺はそれ以上、我が儘は言えなくなってしまった。 「...分かった。なら居ない所ならいいだろう?見つからないようにするから」 俺がそう言うと、ミヤが渋々と頷く。 「...わかった。...ならその代わり私も着いていく。ジュンお兄さん一人じゃ危なっかしいから」 危ないのはそっちだと俺が異論を唱えようとしたら、大粒の涙を浮かべた瞳で凄まれてしまったので渋々承諾した。
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