第9話 治療院

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第9話 治療院

俺達がまず向かったのは、街の反対側に位置するノーズバーク治療院だった。 この治療院には疫病を恐れて村から逃げ出してきた人々が多くいた。 しかし、その中に既に発症していた者が紛れて込んでおり、病は治療院の中で瞬く間に広がってしまった。 しかし感染力に恐れをなした最後の医者が逃げ出してからは、ここには誰も近付けなく罹患者はまだ中に放置されている状態だそうだ。 *** 石造りの塀の中にその治療院はあった。俺はミヤに塀の外で待っているよう伝えて中に入った。 治療院の中に入ると、そこは酷い惨状 だった。 所々に物が散乱しており、一歩進む事に 奥から死臭が漂ってきた。 通路の先に夥しい数の死体が転がっているのが見える。これが臭いの原因か... 俺は鼻と口を布で覆い、病室の中へ入った。部屋を調べると、そこにはまだ生き残っている人が数人見えた。 しかし、皆同様に状態が悪く皮膚に夥しい数の爛れた発疹が出来ていた。 俺はゆっくりと眼を瞑り自分に意識を 集中させた。 すると己の中に駆け巡る大きな光の 流脈が見えてきた。 俺はその光の中に向かって腕を突っ込んで そのまま手を握りしめた。 眼を開けた俺は右手を患者の身体に翳した。 すると、突然ストッパーが外れたかのように急激に俺の手の内から大量の光が漏れ出してきた。 その事態に焦った俺は一度、右手から意識を手放した。 すると先程まで大量に漏れ出していた 光が手の内に収まる。 息を吐いて、何気なしに患者達に眼を向けると彼らの身体からいつの間にか発疹が消えていた。 差し詰め、生き残った人全員に治癒を終えた俺は酷い倦怠感を感じながら立ち上がった。 力を使いすぎたことへの反動なのか軽い眩暈を感じながら部屋から出ようとした時、ミヤが俺の居る病室の中に駆け込んできた。 「ミヤどうしたんだ?外で待ってるよう 言っただろ」 「そんなことより、ジュンお兄さん急いで隠れて!」 ミヤに急かされるままベッドの下に押し込まれ続いて隣に彼女も潜り込んできた。 俺が声を発しようとするとミヤが口元に 人差指を当てる。そして周囲を確認した後小さな声で続けた。 「兵士が建物の中に入って行くのを見て裏口から入って、お兄さんに知らせに来たんだけど遅かったみたい。」 ミヤがそう言うや否や、ガチャガチャと複数の足音が建物の中に響いた。 その音は俺達がいる病室の前で止まり そして次に、扉を開けて中に入ってきた。 『一体どうなってる?疫病患者が集まってると聞いたが...』 『報告します。遺体を確認しましたが 発疹がある者は一人も見つかりませんでした。』 『生存者だけでなく遺体にも発疹がないとはどういうことだ!お前の報告では、発疹がある者が居たんだろう!』 『はい。申し訳ありません。』 若い風貌の男が中年の兵士に向かって怒鳴り付けている。 見た目からすると十代後半くらいだろうか...他の兵士とは違って彼だけ、服装が違った。 端整な顔立ちに肩口ほどに切り揃えられたダークブラウンの髪が相俟ってよく似合っている。 そんなことを考えながら息を潜めて隠れていると、俺は先ほどよりも酷い眩暈を感じて頭を押さえる。 すると俺の変化に気がついたミヤが 不安気な顔をする。 大丈夫だと、安心させてやりたかったが 身体が怠くてそれも出来そうになかった。 そんな折、俺は背中をベッドにぶつけて しまった。 ガコッ 直後、その音を聞いた若い男と兵士達の視線が一斉にこちらに集まった。 若い男が指示を出すと兵士が 此方へ近づいてくる。 するとミヤが俺の肩口をとんとん叩き 俺に向かって大丈夫だと唇を動かした。 そしてその次の瞬間、俺が止める暇もなく 彼らの前に出て行ってしまう。 突然、現れたミヤを若い男が訝しげな顔で見つめる。 「...何故隠れていたんだ?」 「...ごめんなさい。たくさんの足音が 聞こえたから怖くて隠れちゃったんです」 ミヤがしおらしく答えると男の警戒を解いたのか幾分か彼の口調が優しくなった。 「そうか、それはすまないことをしたね。 それで君には悪いんだが、色々と聞きたい事があるので私について来てほしい」 男がそう矢継ぎ早に言うと、兵士がミヤの腕を掴かんだ。 俺は一連の流れを見て深く呼吸したあと、少しずつ身体に力を入れてベッドの下から出た。 「待ってください!」
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