第5話 力

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第5話 力

朝、目を覚ますと元の世界に戻っている ものと思いたかったが現実は厳しいものだった。 「ジュンお兄さん起きてる?」 体を起こして声のした方に目を向けると 部屋の扉の前にミヤが立っていた。 「これ、顔を洗うのに使ってね」 すると水が入った桶を手渡される。 波打つ水面に映る自分を見てこれは夢ではないのだと再び思い知らされる。 着替えを終わらせて部屋から出ていくと これから仕事に行くであろうジークさんと、アリサさんがいた。 「すまない。街をゆっくり案内してやりたかったがこれから仕事があってね」 ジークさんが申し訳なさそうに 言うと、代わりにミヤが案内を申し出て きたので、有り難くお願いする事にした。 街に出る前にミヤが俺の髪の色と眼の色が目立つからと頭に被るフードを渡された。 そしていざ街に出てみると、初めて目にしたときと同様に活気があるとは言えない様子に見えた。 行き交う人々の表情もどこか暗く感じられる。 彼らを見ていると俺の心内の奥底から 靄のような何か得体の知れない物が溢れ出してくる…そんな気がする。 暫く彼らを見つめていると、突然 ミヤに手を引っ張られた。 「こっちこっち」 「どこにいくんだ?」 「うーんと、街に出るついでに、食料を買いに行こうと思って。お兄さんも持つの手伝ってくれない?」 「いいよ。」 先程までは変な感覚に捕らわれていたのに不思議とこの子といると、少しそれも ましになった気がした。 ミヤに連れられてやってきたのは、外観からして、お世辞にも儲かっているとは言えなさそうな店だった。 店の中に並べられている商品を見てみると、変な形をした野菜や毒々しい色をした 果物、干し肉等が売られていた。 「おじさーん。 これとこれとこれちょーだい」 ミヤが声をかけると店の奥からガタイのいいおやじが顔を出す。 「おう。ミヤじゃねーか。暫く顔を見せなかったが、元気にしてたか?」 おやじの言葉にミヤは苦笑しながら再度 品物を注文する。 「元気だよ。それよりおじさんこれとこれとこれちょーだいよ」 「ああ、ちょっと待ってな。 すぐに包んでやるからよ。 それより隣の兄ちゃんは連れかい?」 そう言うなり店のおやじが怪訝な顔を 俺に向ける。 俺は、おやじの視線を避けるように 咄嗟に顔を俯かせた。 不安気な俺を気遣ったミヤが俺の手をそっと握ってくる。 「そーだよ。親戚のお兄さんなの。暫くはウチにいる予定なんだ。」 「ふーん」 おやじは一瞬、疑うような視線を俺に向けたがすぐに元の笑顔に戻って、礼を言う。 「またこいよ。安くしとくからさ!」 「ありがと、おじさん」 店から離れると先程までのはりつめた空気から解放され、どっと疲れが押し寄せてくる。 「ジュンお兄さん大丈夫? 少し休憩しようか?」 「うん。ありがとう」 礼を言うとベンチのある所までミヤが案内してくれる。 ちょうど木の陰の下にベンチがあったので、日除けには丁度いい場所だった。 暫く二人、無言で座っていると、唐突にミヤが話しを切り出してきた。 「あのね、帰る前にお父さんの仕事場の様子を見に行きたいんだけどジュンお兄さんは先に帰る?」 「いや、俺も一緒に行くよ。」 「わかった。じゃあ、いこっか」 ミヤが向かったのは、周り一帯が畑に囲まれた場所だった。 するとジークさんは、農作物を育てて生計を立てているのか……。 「お父さーん!」 畑に向かってミヤが大きな声で叫ぶと ジークさんが振り返り、にんまりと笑った。 ─────── 畑から駆けつけて来てくれたジークさんと三人でお茶を飲みながら雑談していると 街の様子について聞かれた。 俺が街のあの様子をどう話していいか 考えあぐねていると代わりにミヤが答えてくれた。 「…相変わらずだったよ。どこも商品が 不足していて街の人も皆、顔色が悪そうだった」 「そうか…。うちの畑もこの通りだしな。 日照りのお陰で作物が育たなくて困ったもんだ。その上、ここら一体の井戸の水も枯れかけらしいし……」 ジークさんが差した方の畑を見てみると、彼の言った通り、確かに畑の作物が半数は枯れていた。 「お父さん。このままだと畑が全部枯れちゃうね。そのうえ井戸もだなんて...」 この時、隣で今にも泣き出しそうな顔をしているミヤを見て俺は何もしてやれない自分が心底不甲斐なく感じられた。 ―――三人で家に向かって歩き出そうとした とき、袋から先程買った果物が畑に転がり落ちる。 俺が腰を屈め畑に手をついて果物をとろうとしたその時だった。 俺の内から溢れ出る何かが手の表面から 畑へと深く流れ込んで行くのが伝わった。 その感覚に驚いて慌てて畑から手を離した時には既に、枯れかけていたあの畑が瑞瑞しいほどに息を吹き返していた。 起こった事に驚いて俺が声を上げると此方へ振り向いた二人も、同様の声をあげた。 それも当然だ。 先程まで、枯れかけていた畑が今は瑞々しく光を帯びているのだから。 「これはいったい?どういうことなんだ...」 「...ジュンお兄さん?なにかしたの?」 俺の異変に気がついたミヤが声をかけてくる。 「いや、俺はただ畑に手をついただけで… よくわからないんだ」 すると軽くパニック状態に陥った俺を置いてジークさんが暢気な声を上げた。 「なんにせよ、これは奇跡だ。ありがたい」 ―― 喜ぶ二人の傍らで、俺は己の手を見つめながら、あの時何が起きたのかを思い出 そうとしていた。 あの瞬間確かに、体の内から外に力が流れていくのを感じた。 では、先程、畑を蘇らせた力は本当に俺の力なのだろうか。 この顔といい。此方に来てから、おかしなことばかり起こる……。
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