第1話-2

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第1話-2

待ち合わせ場所にはちょうど十分前に到着した。朝の出勤時間帯なので駅前のロータリーには生きるため、幸せになるため、仕事に向かう人たちで賑わっていた。駅の方からは特急電車が通過することを注意喚起するホームアナウンスが流れていた。  「おっす。いつもながら早いな」  そう言いながら雄基が片手を上げて近寄ってきた。  「おはよう。来る順番は高校入っても変わらんみたいやな」  「まあ聖斗は絶対最後やし、こころと架純はいつも丁度に来るからな。架純は家北側やのに待ち合わせくるん?」  「あぁ、一人で行くの嫌やから来る言うてたで」  王子公園の遠足から未だに俺らは仲良くしている。遠足のあと架純やこころと雄基の家で知り合い、それからは仲の良い五人組として、周りにも知られている。高校受験でバラバラになるかと思ったが、聖斗以外は第一志望が鳳凰尼高で全員合格し聖斗は第一志望に落ちて鳳凰尼高に進学することになった。因みに聖斗は五人の中で一番賢い。第一志望は全国的に有名な進学校で偏差値は七十を超えていた。そこに聖斗は数点差で落ちてしまったのだった。しかし、本人はあまり凹んでもおらず架純の家で聖斗残念会をやったときも一番テンションが高かったのは聖斗でなぜこの会を開いたのか忘れるほどだった。さて、この中で色恋沙汰があったのか、これからあるのかは各々勝手に判断していて頂ければと思う。  「おはようー。晴れてよかったね今日ー」  立浪こころが眠そうな顔で俺たちのいるところに近寄ってきた。  「おはよう。お前だいぶ眠そうやな。昨日遊んでたん」  「うん、聖斗が映画行こって言うから梅田行ってた。マンピース観てきたけど普通に泣いたわー」  マンピースは麦わら帽子をかぶった青年が大秘宝マンピースを探して旅をする目下大ヒット中の漫画である。  「あれ昔の話の焼きまわし映画やろ?やっぱ原作あるなら漫画で読まなあかんで。なあ雄基」  「マンピースてどんな話なん?」  「お前に話し振ったのは俺のミスや、すまん。雄基はコーナンしか読まんもんな」  名探偵コーナンはホームセンターで勤務する万引きジーメンが主人公の推理漫画である。  「それにしても、架純遅いな。聖斗はまだ来ないん普通やけど架純は普段こないに遅れへんねんけどな」  そう言いながら俺は架純から連絡が来てないか携帯を確認した。  「流石、しょっちゅう二人で遊んでるだけあって詳しいねー」  こころがニヤニヤしながら言った。  「アホか。特別二人で遊んでる言うわけでもないわ。お前かてよう遊んでるやんけ」  「いやいや、意味合いがちゃうよー」  相変わらずニヤニヤしているこころを無視して携帯画面を見るとちょうど架純から電話がかかってきた。  『もしもし龍一?ごめん今起きてんー!初日から遅刻やわ最悪や!』  「アホやなぁもう。まあ式自体は九時半からやから今から急げば間に合うやろ。あんま慌てず急いで来いよ」  『うん、ありがとう!私と龍一同じクラスやったらええね!』  「やな。学校着いたら確認しとくわ」   『うん!じゃあ後でね!みんなにも謝っといて!』  「あいよ」  携帯を切ってから二人に電話の内容を伝えた。あとは聖斗だけだが、いつまでも待つと俺たちまで遅刻してしまうので先に行こうかと駅の北側へ渡る踏切の方へ歩き出した時、後ろから情熱的な声が聞こえてきた。  「おはようー!こころちゃーん!今日も可愛いねー!」  野良犬の体毛で踊るノミのように飛び跳ねながら聖斗が満面の笑みでこちらに向かってきているところだった。  「はいはい、ありがとう。そんなに叫んでしまうほど可愛い女の子を待たせるのいい加減やめなさいね」  最早慣れ過ぎて聖斗を出来の悪い息子のように扱うこころが呆れたような顔をしながら言った。  「よし、じゃあ行こか」  雄基の落ち着いた声を合図に今日から三年間お世話になる学び舎へ向かって四人でぞろぞろと歩き出した。四人で踏切を渡った直後、カンカンと踏切音が鳴り出し少し間を開けてから特急電車が轟音を鳴らしながらまるで進行方向に何か欲しいものがあるかのように必死に走っていった。子供の頃あの音を怖がってあの踏切の前でベビーカーに乗りながら何度も号泣したことを思い出しながら、鳳凰大学付属尼崎高等学校への記念すべき一回目の登校を楽しんでいた。これから始まる人生最大の青春時代に思いを馳せながら。      白地に黒の墨で書かれた巨大な『入学式』の看板が一番に目に入ってきた。正門周りに咲く木から降り注ぐヤラせの様な桜吹雪に塗れながら四人で正門の敷居を跨いだ。期待と不安を半々に抱えた新入生たちを好奇心と下心を半々に抱えた在学生たちが各々目をつけた新参者に絡んでいた。  「義務教育の九年間!女の子と会話もろくにできなかった君たち!今日から影を帯びた人生を抜け出し日向の中を進むべく!是非とも我が研究会に入ろう!」  首から「SF研究会」と書かれた看板を下げた男がいかにも気の弱そうな男の集団に向かって顔を真っ赤にして叫んでいた。どこから突っ込んだらいいか困惑しながらその光景を眺めていると隣で聖斗が弾んだような声で話しだした。  「勧誘の数すごいな!部活だけでなく同好会もこんなにあるとは知らんかった!」  「お前美術部入るって決めてるんやろ。同好会あっても関係ないやん」  「部活と同好会両方に所属してはいけないという決まりはない!どうせ美術部入っても作業は自己ペースやからな!」  「アグレッシブやなお前は。俺は野球部だけで精一杯やわ」  「でも落研もあるみたいやで。お前さんの将来考えたらありちゃうん」  雄基が自転車置き場の前で着物を着て新入生を勧誘してる集団を見つめながら言った。  「確かに魅力的やな。入るかどうかはさておき覗いてみるのはありやな」  俺の目は着物の集団の中でもショートヘアーで色白、猫目のお姉さんに目がいっていた。キラキラした笑顔でビラを渡してる光景はとても魅力的で多少顎は出ているが、どストライクの見た目であった。  「なーに見惚れてんの?」  こころが目を細くして俺の顔を覗き込んできた。  「アホ、見惚れてへんわ」  「他の女の子に鼻の下伸ばしてたら架純に怒られるで〜」  こころに便乗して聖斗も茶化してきた。  「別に怒られる筋合いないわボケ。お前そういや、西宮の女の子に海遊館行こって誘われてたよな。あれどうなったん」  「何その話。私しらんで!」  こころに詰められあせり倒してる聖斗をおいて、雄基とメイン棟のロビーに張り出されているクラス表を見に行った。ロビーは新入生でごった返していた。友達数人とやかましく騒いでいる奴らもいれば、一人でおとなしく自分の受験番号を探す奴もいて各々の新生活への不安や期待がにじみ出ているような気がした。人混みの嫌いな雄基に背中を押されて表の前までいそいそと突き進み自分の受験番号を確認しながら雄基に言った。  「この状況、合格発表の日思い出すな」  「ほんまやな。番号なかったやつが裸で暴れだして偉い騒ぎなってたよな。あいつうちの中学のやつやったっけ」  「せやで。同じクラスなったことなかったけど、中学のときも裸で暴れたことあったと思うで。確か水泳の授業中に好きな女にキショイ言われたかなんかで」  「その状況なら一枚脱ぐだけでええけど前のときは制服全部脱いでのやからな。ベルト外すときに醒めへんもんやろか」  「そこで醒めるようなやつがそもそも全裸ならんて」  「なんの話やねん」  こころをなだめるのにスタミナを使い果たした聖斗が後ろに突っ立っていた。  「おー大丈夫やったか」  「大丈夫やったかちゃうわ!ホンマいらんこと言うわー」  「そもそもお前がいらんこと言うからやろ」  「それは龍一ちゃんが和服美人に心奪われてたからやんかー。ええ感じやったなあの子。落研入りいや」  「入ったとしても絶対お前には報告せん」  「つれないこというなやー!」  聖斗が叫びながら首に飛びついてきた。  「あ、俺の番号あったわ。壱組や俺」  二人の絡みにノータッチだった雄基が表を指差しながら言った。  「なんやもう見つけたんか。俺もはよさがさな」  雄基に見習って俺も壱組のところを探してみたが俺の番号はなかった。しかし、隣の弐組の欄に目を移すとすぐに自分の番号が見つかった。  「あった。俺弐組や。雄基ちゃうクラスやな」  「やな。でも確か同じフロアやろ壱組と弐組」  雄基がニヤッと笑いながら言った。昔から俺は雄基のこの笑い方が好きだった。頭の回る雄基がこの笑い方をしたときは大体が何かおもろいことをする前兆であった。  「俺は零組や!」  「零組って特待クラスやろ。流石やなお前」  「自己採点したら満点やったからな!」  聖斗の偏差値を考えれば当然だった。クラスは全部で九クラスあり特待クラスの零組から壱組、弐組、と数が増えれば増えるほどクラス学力が下がっていく編成になっている。このことを踏まえると三人の学力がどの程度か計ることができるだろう。そういえばと前の表に目を向けてさっきメールで送られてきた架純の番号を探した。しばらく探した後、三組の真ん中らへんに架純の番号を見つけた。フロアの違うクラスに分かれてしまったことに新生活への高揚感で温まっていた気持ちがちょっと冷めた。  「さて、自分のクラスもわかったことやし各々の教室に向かうか」  雄基に促され三人で新入生がごった返しているロビーを出て西側の建物へ歩き出した。  「一年生の校舎は一号館やんな」  「ああ。俺と龍一は5階で聖斗は6階やな」  「6階まで上がるのじゃまくさいなあ。なんで賢い奴が一番めんどくさい目にあわなあかんねん」  「お前それ一号館ついたら絶対言うなよ。八組のやつとかもおるんやからな」  「あんなテストで低い点とるやつが悪いのよ~」  聖斗がタコ踊りをしながら言った。  「ほんま知らんでどうなっても」  少々苛立ちを覚えたがあまりにも見事なタコ踊りに笑いの感情が勝り、笑いながら窘めた。  そんなこんなで1号館の玄関に着き、それぞれの下駄箱で持って来た室内用のサンダルに履き替え下駄箱から階段のほうへ向かおうとすると右側にエレベーターが目に入った。  「おっエレベーターあるやん!」  「高校にエレベーターなんてあるんやな」  聖斗と二人で話している横で雄基がエレベーターの横に貼られている張り紙を見つめていた。  「なんか書いてあるんか雄基」  「この学校は聖斗と似たような方針みたいやな」  雄基の言葉で張り紙をよく見てみると次のようなことが書いてあった。    本日入学した新入生諸君     四機のエレベーターは左から零組用、壱組用、弐組用、教員用となっている。  該当者以外の使用は禁じており、緊急時以外に不正使用したものは停学または退学処分とする。                             学園長    「なんやこれ。罪と罰のバランスおかしいやろ」  「てか高等学校って名前やのに学園長なんやな。忍たまやん。ヘムヘムおるんかね」  「とりあえず俺らは全員使えるみたいやけど、こころと架純はどうなんやろか」  聖斗の素朴な疑問をスルーした雄基の言葉に俺はハッとした。  「そういえば架純は三組やったわ・・。あいつ四階まで階段使わなあかんのか」  「でもなんで三組と四組が一番きついんやろ。実力主義なら七組八組が四階になるんちゃうん」  「おそらく上昇志向を煽るためちゃうか。しんどいのが嫌ならワンフロア上がれるよう努力せえと。七組、八組はそういう意味では入学時点で半分見放されてるのかもしれんな」  最後のほうは小声で雄基が言った。確かに教室の配置はそういう意図があるのかもしれないが、今の世の中ここまで実力主義丸出しの学校があるのだろうか。  「とにかく俺らは上に上がって教室に向かうか。ここでいろいろ考えてもなんにもならんやろ」  雄基が俺を慰めるように言った。架純のことで俺が考え込んでいるのを見透かされた気がしてちょっと恥ずかしかった。雄基の言葉でエレベーターに向かおうとするとそのエレベーターの前で騒いでいる集団がいた。  「はああ?なんで俺らエレベーター使われへんねん!テストの点数がそないに大事か!」 「んなもん階段で上がるのうっといわ!エレベーターつこたろや!おらどけや!」  おそらく中学時代いきり散らしていたであろう男子生徒数人がエレベーターへ乗り込もうとへほかの生徒を突き飛ばしながら向かっていった。  「何を騒いでいる」  俺たちがいる後ろ側から低く通る声が聞こえ周りは静まり返った。声のしたほうを振り返ると黒のスーツを着て眼鏡をかけたオールバックの男が後ろ手に組んでゆっくりエスカレーターのほうへ進んでいくところだった。  「貴様らは何組だ」  すでにエレベーターに半分乗り込んでいた集団はエレベーターに乗り込み切ってからその男に答えた。  「四組やけど。八組の奴らが使えへんのはともかくなんで俺らまで使えへんねん。俺らはめん・・」  「退学だ」  男子生徒が話している言葉を切り捨てるように鋭く男が言った。  「・・えっ」  「聞こえなかったか。貴様ら全員退学だ」  俺たち含め周りで観ていた生徒全員が呑み込んだ空気が固まっているように見えるほどその場は張り詰めていた。その空気の中、血の気が引きすぎて唇が少々紫色になっているエレベーターに乗り込んだ男子生徒がやっとの思いで口を開いた。  「退学って、確かに張り紙にはそんなこと書いてあったけどまさかこんなことで退学なんてならないでしょう?」  「なら聞くが、この程度の決まり事も守れないような愚かものに私たちは何を教えるというのだ。貴様らのような奴が将来社会に出てからその考え方からたばこのポイ捨てで家を燃やし、飲酒運転で人を殺すのだ。さらに言うならこの状況で自分より年上のものに敬語すら使えない。入試を乗り越える学力はあっても常識は欠片も持ち合わせていないようだな。貴様らがどのような人生を送ろうが私にはなんの興味もないがこの学園には不要だ。消えろ」  「お前にそんな権利あんのか!こっちは受験代も入学費も払ってんねん!」  エレベーター乗り込み組のうちの一人が最後の力を振り絞って叫んだ。退学を言い渡した教師らしき男はその生徒を一瞥し口を開いた。  「あたかも貴様が自分で稼いだ金で払ったような言い草だな。この学園はそれぞれのクラスの担任にクラスの生徒の処分を一任されている。そして私は今年度の一年四組の担任だ。つまり貴様らの在学を許すも許さないも私の判断一つということだ。まあ普段ならば担当教師側も一任されている分軽々しく退学や停学を決めたりはせんがな。毎年入学式の日は貴様らのような勘違いし思いあがったカスどもが沸くこともあって、数人の退学者が出るのが通年のことなのだ。最後に言っておくが私が今説明したことはすべての保護者に入学式前の保護者会で説明済みだ。生徒達には伝達しないようにと注意喚起も含めてな。もう貴様らに説明することはなにもない。下駄箱で靴を履いて早々に立ち去れ」  青白い顔に涙を浮かべてる男子生徒たちを見つめていると隣の聖斗が小さい声でつぶやいた。  「せやからなんで学園やねん」
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