プロローグ

2/5
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
窓外でしんしんと降る雪にも負けず、真っ白に侵食された城の最上階。時を失ったような静けさに支配されたこの場所は、かつて数々の英雄たちが沈んだ不倒の地。 この場所が再び荒々しい戦場へと化していた。 侵食された死の純白を切り裂くように、光の軌跡が戦場に刻まれる。 光り輝く大剣を操る男は、襲いかかる鎧の亡霊を演舞のごとく切り倒す。 男の鎧、兜、全ての防具が、彼が死線を潜り抜けてきた歴戦の騎士であることを証明していた。  そんな彼が見上げる先には、身の丈の数倍はあろうかという怪物。豪傑たちをこの地に沈めてきた主である。 『問う、なぜ無駄にあがくのか』  重々しい声は全ての者に恐怖を植えつける。  不敗神話を象る怪物。声だけで人々を屈服させる圧倒的暴力に、男は不敵に笑った。 「愚門、それはエリーシャを愛しているからだ」  一人の女のために戦う。その揺るぎなき信念が彼の内側からさらなる力を引き出した。 揺らめく雷光が彼の周りを駆け巡る。その姿はまさしく勇者である。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!