プロローグ

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そんな美甘美夜の背中が映し出された画面に目を落とし、俺はため息をつき背もたれに体重を預ける。 「今回のやつにはほんのちょっと期待してたんだけどな」  奇跡や希望なんていう小学生の習字で書かされる青臭くてこっぱずかしいワードをほんの少しでも抱いた自分を呪いたい。こんな感情を抱いたのも、気持ちのいい昼休みの陽気のせいだ。  教室の片隅、俺は左手首に巻かれた小型電子機器ティアリアを操作して、空中に投影された画面を消す。  信念を叫び続けた人間は世界を変える奇跡を起こす、ことも確かにあるのだが。  それは教科書に載るような偉人たちが成し遂げてきた偉業のピックアップであって。  映画の抜粋シーンであって。  それが「奇跡」と称されるほど天網学的確率なわけであって。  俺のようなその他大勢のモブキャラ風情には縁のない話である。  俺だけではない。この世界は、自分が特別でないと知りながら、特別だと信じたがる普通の人間で溢れている。  どんなに自分の主張を唱えようと、自分の信念を貫こうと、当たり前が当たり前であるように、他人の価値観や常識なんてそう簡単には変わらない。 世界は変わらない。  さて、悟ったように語ったが、つまり俺が言いたいのは、どんなに二次元を愛し、可愛いキャラを絶対正義と掲げても、エリーシャを嫁と高らかに叫びたもうた残念な偽勇者よろしく、周囲の反応は「オタク、キモイ、イタイ」の三拍子で事足りる世界であるということだ。  悲しきかなこの世界。 こんなつまらない現状はまだまだ続きそうである。
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