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『ディベート・ワールド』。入学時に渡されるティアリアに搭載されているこのアプリにより、学園内でのヒエラルキーは討論バトルの成績で決まる。
使用施設、あらゆる権利、追加特典、学内においてランクによって様々な特権が与えられる。
自分が特別だと思いたがる人間の弱さがそうさせるのか、人間とは不思議なもので目に見える形で区別されると見えない差別まで誕生させる。
そして、みなさん、ご察しのことと思うが俺と香蓮はまごうことなき平均以下、つまり道端の雑草のように相手にされていない立ち位置だ。
とはいえ、俺にはそれ以外にも理由があるのだが。
そのとき、そんな雑草の俺たちの横を、涼やかな風が吹き抜けた。
長い黒髪に色白の肌、歩くだけでも絵になる風格。学園のヒエラルキーの頂点に君臨するランクS、美甘未夜である。『ディベート・ワールド』では『審判の魔女』という役職を持ち、いまだ敗北を知らない完全無欠の生徒会長だ。
そう、彼女こそが俺がこのような扱いを受ける元凶である。
ことの発端は二年生のクラス替え。不幸なことに俺と彼女は同じクラスになり、これまた不幸なことに隣の席になった。
どれだけお金を積んでも手に入れたいその席をぽっとでのモブキャラが偶然手に入れてしまったのだ。
さあ、学校一の嫌われ者の誕生である。
高ランクの生徒から睨まれ、美甘未夜ファンクラブ、通称『魔女狩り狩り隊』から監視され、俺は肩身の狭い学園生活を余儀なくされていた。
だったらこの学園ルールにのっとって誰かこの席を奪ってほしい。だが、そんな行動をすれば未夜に好きだと告白しているようなもの。リスクを恐れて誰も討論に挑んでこない。
結局、俺は一か月過ぎても生徒たちの標的のままだった。学園生活には夢も希望もない。
違うクラスの女子(香蓮)に馬乗りされる男子(俺)という状況を無視した美甘美夜はそそくさと教室を後にした。彼女の放課後は生徒会長として学校のあれこれについて討論づけらしい。
しかし、よく考えてほしい。美甘未夜は無敗である。彼女が却下した意見が通ったことは一度もなく、学園は美甘によってつくられているといっても過言ではない。
だが、負け惜しみではなく、心からの真実として断言しよう。
学校なんてクソくらえだ。
部活でさわやかな汗を流すスポーツマンも、校舎裏の古臭い鐘の前で告白する男女も、毎日毎日生徒会で討論する美甘未夜も、そんな青春、願い下げだ。
俺のオアシスは家にある。
アニメに漫画にライトノベル、手の届く範囲にリモコンとコントローラーとお菓子がある空間はまさに聖域。アルティメット空間。青春なんてボタン一つで画面の向こう側に何度も投影できるお手軽なものだ。
今日は、昨晩放送した今期一押しアニメ最終回『双星のオリンポス』の録画が待っている。さあ、帰ろう家に!
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