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VS七海香蓮 俺はパンツを見ていない!
『自分の思い通りの世界をつくりたいと思ったことはありませんか? それが叶うのがこの学園です』
と、胡散臭い宣教師のように綴られたこの言葉は、私立白千条高等学園の入学式の日、新入生に配られるティアリアのチュートリアルで流れる一文だ。
白千条高等学園は生徒数三千人のマンモス学園であるが、それと同時に白千条グループが開発したある発明品を導入して、勢力を伸ばしたことでも有名だ。
その発明品がティアリアである。
電話など一般の携帯端末の機能を有しているのはもちろん、架空空間をつくり出し、疑似体験を可能とするバーチャルリアリティーシステムが備わっている。
それを使い、この学園にはある制度が設けられている。
それがティアリアに内蔵されているアプリ『ディベート・ワールド』による討論バトルと、勝敗によって決まるランク制度だ。
この制度により、卒業生は思慮深く、論理的で、統治者としての才能が身に付く。一流大学の進学、一流企業の就職と、この世界を手堅く生きる術を身につけられるのだ。
『ディベート・ワールド』のルールは単純明快で、トラブルが発生したら話し合いで解決するというもの。だが、恐るべきは決定した意見に対する強制力である。
ティアリアを装着している限りその拘束には抗えない。
個人的な感情などティアリアの強制力が及ばない場合、このルールを破ったらその光景をティアリアが記録して退学となる。
つまりチュートリアルの言葉通り、勝てば自分の思い通りにできる。
ただ、小中学校の学級会で散々味わってきたように、討論なんていつまでも話が平行線で終わらない。
そのためこの学園で実装されているのは、架空空間を使った、言葉を力に変えて戦う討論という名の殺し合いである。
にもかかわらず、殺し合いの内容が「香蓮のパンツを見たかどうか」だ。
『ディベート・ワールド』は対立によって強制的に発動される。
こんなしょうもない議題であっても例外ではなく、俺たちはパンツを見たかを真剣に議論しなくてはならない。
香蓮の意見を完全に呑んだのに、いったいどの分岐点で間違えたのか。
いや、みなまで言うまい。男子ならきっと誰もが同じ道を辿るだろう。この手に残るぬくもりに悔いなし。
まったく、思春期男子の浅はかさよ。
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