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魔王降臨! みたいに格好をつけられたらよかったのに
朝目覚めると、異世界に転生されていたり、女の子が横で寝ていたり、何か事件が起こっているのはもはやアニメや漫画ではお約束の展開だが、よもや俺がそれを体験することになるとは。
昨晩ティアリアに送られてきた一通のメッセージ。
〈あなたに伝えたいことがあるので、明日の放課後に屋上で待っています〉
という呼び出しの内容。俺は夢ではないかと何度も目をこすって確認したがどうやら本物のようだ。
香蓮にお願いしても叶わなかった告白のフラグが今まさに、立ったのだ。
俺はいつもより洗面台の鏡の前で気合を入れて身支度を整え、妹に不審な目を向けられながら家を出た。
しかし、冷静になって考えてみよう。
そもそも誰が女と言った? メールの差出人に名前はなかった。
言葉づかいから俺が女の子に間違いないと断定しただけだ。
放課後は一目散に家に帰り、青春を時間の無駄遣いだと否定し、香蓮と毎回バカな寸劇をする俺に友達がいるはずもなく、まして親しい女子など論外だ。香蓮は例外だが。
自分で言っていて悲しくなってきたが、そんな俺に好意を寄せる女子など想像できない。
誰かが暇つぶしにいたずらメールを送っただけかもしれない。
「あいつ本当にくるか賭けようぜ」
「ぜってえ、くるだろ」
「おい、それじゃあ賭けになんねーだろうが」
げらげらと笑ってそんな会話をしている奴らがいるかもしれない。
そう考えると、屋上で待っているという内容も告白ではなく、俺をしめるための呼び出しではないだろうか。
なんせ俺には敵が多い。美甘未夜という絶対的カリスマの隣の席だからだ。
一日中そんなことを考えていた俺が授業に集中できるはずもなく、教師が俺の名前を懇願するように呼び、最後には涙声になっていた事態にも気づかないまま、あっという間に放課後を迎えた。
鞄を抱えて教室を出る。
行くべきか、帰るべきか。
落ち着け、と自分に言い聞かせる。
朝の衝撃が大きすぎて浮かれてしまったが、そもそも俺は青春否定派ではなかったか。
家でアニメやゲームに囲まれて過ごす。これこそがこの世の最も洗練された放課後の過ごし方だと自負していたのではなかっただろうか。
そうだ、女子かどうかも、告白かどうかも怪しい呼び出しに応じる必要なんてないのだ。
しかし、そんな思考とは裏腹に俺の足は屋上に運ばれていた。
なぜか、それは俺が男だからだ。限りなく低い可能性でも、俺が思春期の健全な男子である以上、この恋愛ゲームのようなイベントを回収しないわけにはいかない。
屋上の扉を開けると、夕日のオレンジ色の光が屋上の床を照らしていた。
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