ひいおばあちゃんの包丁

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「村へののお客様だったんですね」 村に向かうという彼に私は笑いかけた。 「お嬢さんは村の方ですか?」 彼は30代前半ぐらいの黒髪で真面目そうな人だった。 「そうです。今日から民宿の女主人なんですよ」 「今日から?」 「祖母がやっていた民宿を継いだんです」 去年亡くなった祖母は母が結婚してから、民宿を始めたという。 子供の頃、休みにおばあちゃんの民宿に行くのがすごく好きだった。 民宿に行くと、サイクリングやツーリングをしに来た人や近くに旅行へ来た観光客と様々な人がいた。皆、自分たちが住んでいる場所や旅行で行ったところの話をしてくれて、目を輝かせながら私は聞いていた。 祖母は夕飯を出しながら、微笑ましそうに私たちを見ていたことを覚えている。 私は社会人としてOLをやっていた。しかし、祖母が亡くなり、母が民宿は継ぐ人がいないから売るしかないと言ったとき、その思い出が頭に浮かんだ。 「亡くなった祖母が言っていました。旅人の憩いの場となれるような宿にしたいと。祖母の作り上げた憩いの場をなくしたくなかったんです」 母に民宿を継ぎたいと言ったら最初は反対をされたものの、最後にはやってみなさいと応援してくれた。 「そうだったんですか…」 どこか寂しそうな目で遠くを見つめる彼を見て、不思議に思った。 「そういえば、村にはどのようなご用で来たんですか」 「なんといえばいいのか…僕は何年ぶりに戻ってきたんです、村に」 悩むように首をかしげて彼は言った。 「村の人ということですか」 「そうですね。働いていたというのが正しいかもしれません。あなたと同じで民宿で」 「えっ!」 「…とても懐かしいです」 彼は自分が働いていた民宿の話を話し始めた。
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