オオカミトンネル

1/1
前へ
/1ページ
次へ
地元にオオカミトンネルと呼ばれる長いトンネルがある。今では封鎖されていているが、昔は多くの車が通っていたらしい。交通の面でとても楽だったと、近所の笹木じいさんが話していた。そんなオオカミトンネルがなぜ封鎖されるようになったのか。笹木じいさんの話では、オオカミが出るようになったからだとのことだった。トンネルの中に時折オオカミが入り込み、人を襲い始めたのだという。なんでも、火事や事故が起こった際に使う非常口から侵入していたそうだ。非常口は滅多に使われることもないので、ろくに点検もされていなかった。地元の警察が猟師を連れて見に行った時、扉は開け放たれていた。誰かがいたずらしたのだろうと扉を閉めて、オオカミが入れないように封鎖した。しかし、これが良くなかったらしい。ある日、オオカミトンネル内で車同士の事故が発生した。片方は軽自動車だったが、もう片方は燃料を積んだ大型トラックだった。その時、トンネルの中は何台もの車が列を成していたらしい。そんな中でトラックの荷台から燃料が漏れだしているのに人々は気づいた。このままでは爆発する。そう思って一斉に車から降りた。出入り口に近かった人たちはトンネルから無事に脱出できたが、トンネルの真ん中辺りにいた人たちは脱出できなかった。駆けつけた消防隊の話では、多くの人たちが非常口まで行かずにトンネルの真ん中で留まり、煙を吸い込んで亡くなっていたそうだ。笹木のじいさんはその人たちが自ら留まったわけじゃないと話してくれた。 「非常口からは逃げられなかったんだよ。」 どうして、非常口から逃げられなかったのか訊ねるとじいさんは息を潜めて行った。 「オオカミがいたからさ。」 「なんでそう言い切れるの?」 「・・・焼けた人間の死体に紛れてな、オオカミの死体もあったんだ。」 じいさんは当時、消防隊をしていて、その現場へも駆けつけたらしい。そして、人間の死体の中にオオカミの死骸も見つけた。確認すると、非常口はきちんと封鎖されておらず、扉の近くには噛み千切られた人間の死体が僅かに残っていたそうだ。あまりの悲惨な事故に、世間からのバッシングも多く、地元の警察はオオカミトンネルを封鎖せざるを得なかった。なぜ、非常口が封鎖できていなかったのか、未だに解明されていない。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加