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 明けない夜はない。  どんなに嫌なことがあっても時間は無情なくらい正確に時を刻む。  グズグズと鼻を啜っていた私だけど、頭の隅では、明日提出する課題のこととか、この後シャワーに入らなきゃいけないこととか、ちゃんと考えてる。  どこかで冷静な自分に嫌気が差す。  こんな時くらい、思いっきり泣いたり騒いだりしたいのに。  できない。  だって……、してどうなるの?  泣いたって、騒いだって、何も変わらないのに。  割れた皿は、こぼれた水は、絶対にもとに戻らない。  音無さんだって……、絶対に、もう…… 「シャワー、いこ」  もう考えたくない。考えたって、何も変わらない。  もう、終わったんだ。私は……フラレたんだから。  そのくせシャワーを浴びながら、鬱々とした気持ちばかりを引きずっている。 「終わったんだ!」  声に出してみるけど、声に出すと体が拒絶するように鼻がツーンとする。  タオルで髪をバサバサとかき回し、こぼれてくる雫を顔ごと拭き取る。  もういい加減、課題に取り掛かりたい。  今だけでいいから、全てを棚上げして。全てをなかったことにして欲しい。  音無さんに出会ったことですら、今は――忘れてしまいまい。  リビングに戻り、冷蔵庫を開けてミネラルウォーターのボトルに口をつけた。  もうビールは入っていない。  安心できると思ったのに、胸がチクチクする。    目線をそらし、携帯電話を手に取るとメッセージが届いていた。  ドキッと心臓が痛いくらいに跳ね上がった。 「ちがう、明子からだよ!」  声に出して、否定した。何に期待した? 誰からだと思ったの?  もう嫌だ……。  苦々しい気持ちのまま明子からのメッセージを開けると、 ―荷物届いた?  という意味不明の言葉が、ぽつんとおかれていた。  
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