10人が本棚に入れています
本棚に追加
この学校では、毎年5月半ばに長縄大会が行われる。4月に入学した1年生が、はじめて経験する全校行事である。
縄に沿って並んだ全員で一斉に跳ぶのではなく、一人ずつ縄に走り込み、跳んでは抜けていく競技だ。跳ぶ子ども達は縄に対して8の字を描くように動く。縄は担任と副担任が回し、3分間で跳んだ回数を競う。
競うと言っても、1学年1クラスのこの学校では、クラス対抗などにはできない。子ども達が狙うのは、自分達で決めた目標の達成だ。
各学年、4月の進級直後から長縄大会に向けて練習を始めている。
1年生は昨年の経験がないぶん圧倒的に不利だ。今までに縄跳びをしたことがない子がクラスの半数いる。身体も小さく持久力がない。特に小柄なひなのは、身長が100センチちょうど、体重は15キロしかない。
経験がなくても運動神経の良い子は、すぐにコツを覚える。練習するうちに、みんなみるみる上手になった。でも、ひなのだけは、なかなか跳べるようにならない。
誰かが縄に引っかかっても、カウントはゼロに戻ることなく加算されるルールだ。でも、引っかかった縄を回し直すために時間をロスする。
1年生はまだ、他人の気持ちを推し量れない。
5月になって全体が上達し、記録を意識するようになると、誰かが引っかかるたびに嘆息や非難の声が上がるようになった。
私のいるところで文句やヤジを飛ばす子には、その場で注意した。それでも、跳べないひなのが感じるプレッシャーは、日に日に増していったのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!