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午後の道徳の授業で、人の気持ちを考えるということをみんなで話し合った。
できること、できないことは一人一人違う。がんばっているのにできないことを責められたら、どんな気持ちになるか。
授業の最後に書かせた作文に、ひなのは前向きな気持ちを書いてくれた。
ながなわたいかいまでに、とべるよおになりたいです。
私は副担任の西先生と相談して、子ども達の並び順を変えた。
今までは、よく跳べる子を前に、難しい子達を後ろに集めていた。そのため後ろにいくほど縄に引っかかる確率が高くなり、ペースが落ちた。ひなのの前に跳ぶ数人も縄跳びが得意ではなく、リズムの乱れたところで順番がくることも、ひなのが跳べない原因の一つではないかと思ったのだ。
ムードメーカーの百華はそのまま先頭に、2番手のカケルと3番手のディエゴを後ろに持っていって間にひなのを挟む。他の不得意な子も、比較的上手い子たちの間に入れた。
上手な子は、多少縄が乱れていても跳べる。その子達がリズムをフォローする形で、縄はよりスムーズに回るようになった。
大会を3日後に控えた火曜日、1年1組は120回という目標を校長に提出した。
月曜日の練習で、みんなは初めて3分間で98回を跳んだ。クラスは大いに盛り上がり、金曜日の大会までに120回を跳べるようになると強気の目標を立てたのだ。
長縄大会が始まって以来、1年生の記録が100回を超えたことは一度もない。教室でそう告げると、
「だってスーパー1年生だもん!」
子ども達が口々に言った。
「スーパー1年生」は、このクラスのキャッチフレーズだ。
あなた達は特別だ、なんでもできる、そう言い聞かせ、やる気を出させるために頻繁に口に出すようにしている。今では日本語のおぼつかないディエゴまでも、「ボクたちはスーパー1年生です!」と言うようになった。
今のペースでは、スムーズに跳んでも120回は厳しい。そう判断し、縄を回す速度を変えて試してみた。
速く回せば引っかかる子が増える。遅いと順調でも記録は伸びない。そのギリギリのところを探り、ペースが決まると、音楽室からメトロノームを借りた。その音をみんなで聴き、練習のときは足元に置いてリズムを確認した。
私自身、自宅でもメトロノームの振り子を揺らし、リズムを身体に叩き込んだ。
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