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タン、タン、タン、と、縄が地面を打つ音がグラウンドに響く。
私は右腕で長縄を回しながら、左手に持ったストップウォッチのボタンに親指をかけた。
「じゃあ始めるよ! 3分ノンストップ!……3、2、1、はい!」
合図とともに、私の横にいた百華がポニーテールを揺らして回る縄に飛び込んだ。軽々と1回跳ぶと、向こう側に駆け抜ける。それに続き、並んだ子ども達が1人ずつ順番に、縄の中心で跳んでは抜けていく。
列の前方にいるのは、クラスでも運動が得意な子たちだ。彼らにとって、回る縄を跳ぶことなどなんでもない。走り抜けるついでのように、軽々と跳んでゆく。
手を離すと、ストップウォッチは首にかけた紐でぶらりと垂れた。
次に跳ぶ子のスタンバイ位置は、私のすぐ左横。私は縄のタイミングを見て、左手で児童の背中を軽く押してやる。そんなほんの少しの手助けで、スムーズに跳べる子たちもいる。
22人の1年生が順調に跳んでいき、縄の向こう側に曲線の列ができた。そしてこちら側の列は最後の1人。クラスで一番小柄なおかっぱ頭の女の子、ひなのだ。
彼女の前で、縄は何度も空打ちを繰り返している。
タン、タン、タン、タン
縄が地面を打つタイミングに合わせて、ひなのが首を縦に振る。真剣にタイミングをはかっているのは見れば分かるのだが、彼女はなかなか輪の中に入れなかった。その小さな背中を何度押しても、抵抗するかのように足が動かない。
縄の反対の端を持つ西先生の隣では、ひなのが跳んだらすぐに飛び込めるように、百華が前傾姿勢で待っていた。
縄が地面を打つ音が空しく響く。
「早くしろよ!」
百華の後ろに並ぶカケルが怒鳴った。
「ひなのちゃん、がんばれ!」
女子からは応援の声が上がる。その声にギュッと唇を結んだひなのは、目を閉じて縄の下に走り込んだ。
闇雲にジャンプしたタイミングは縄の動きに全く合っておらず、縄はひなのの細い脚に当たった勢いで絡まった。
ひなのはその縄から脚を外し、慌てて向こうへ走り出る。
改めて回し始めた縄がちゃんとした放物線になるとすぐ、百華が飛び込んできた。続いて、カケル、ディエゴ、運動の得意な子どもたちがリズムよく跳んでいく。そして23人目のひなのの前で、また縄は空しく何度も地面を打つ。
ストップウォッチがピピピと鳴るまでの間に、1年1組はそれを何度も繰り返すのだった。
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