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プロローグ
「この病気は、私には治せません。」
「他の医者を紹介いたしましょう。」
たらい回しとはこの事か、と俺はぼんやり
と熱っぽい頭で考えた。
ここは魔法の国。科学が衰退し、魔法が
著しく繁栄を遂げた世界。
車や自転車の代わりに、空飛ぶ箒や絨毯が。
携帯やスマホの代わりに、魔法の杖が。
そんなアイテムが世に出回っている世界だ。
そして先ほど医者に匙を投げられた俺は、
魔法学校生のミュゲル・アルカトスという。
魔法の世界なのに医者がいるの?と思った
そこの貴方。正しい疑問だ。
断言すると、医者は医者であって医者
ではない。医者がゲシュタルト崩壊である。
詳しくいうと、医者の正式名称は
“医療魔術特化型魔法使い”である。長いし
なんか読みづらいから専ら医者と呼ばれて
いるが、その実医者は数少ない医療に特化
した魔術師なのだ。
だから手にしているのは聴診器ではなく
短い杖であり、診察は医者が魔法を使って
行う。回転率はすこぶるいい。魔法で行うの
だから誤診も少なく、回復率も生存率も
すこぶる高い。
なら俺はなぜたらい回しに遭っているか。
それは俺がかかった病気は少し、いやとても
面倒な病気だからだ。
ため息をつきながら診断書を見下ろすと、
そこには既に見慣れてしまった病名が堂々と
こちらを見上げていた。
病名、“魔力吸収による発熱”。
俺は、魔法使いの命とも言える魔力を
ひたすら吸いとって、しかもキャパオーバー
で発熱するという何ともアホらしい、だが
治療がとても困難な難病にかかってしまった
らしい。
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