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「おい、これ」
「あァ……シドさんだ」
「なんだって、こんなところで」
雨の上がった次の日、明星街の裏路地にできた人だかりに、フェンは野次馬として参加していた。最初は何事かと思ったが、頚動脈を掻っ切られたシドの遺体を見て、驚きと同時にユウヤの安否確認が必要だと判断を下した。
夢中で暁闇街のユウヤの家に向かう。フェンは自分でも知らない間に走っていた。途中、ビルの屋上を疾駆する少年を見つけ、フェンは大声で彼を呼んだ。
彼はフェンを一瞥して、少し嫌そうな顔をしたが、すぐに飛び降りて、フェンの前に着地した。そのまましばらく二人で走る。
先に口を開いたのはフェンであった。
「ゾラ、一体何が」
「記者を本国に送り届けたんだ。ユウヤと記者の護衛を、俺は頼まれた」
「護衛を?」
「二人の行く先を監視するって仕事」
「へぇ、なるほど」
「フェンは、シドが死んだのは見たか?」
「ああ。あれは、誰が」
「ユウヤだよ」
フェンは密かにやっぱりか、と思う。同時にシドを見て、反射的にユウヤの身を案ずるのは、彼の兄貴分として当然の反応であった。
「ユウヤは実力的にはシドには勝てない。なんで勝てたのかは分からないけれど、ほぼ相討ちだったんじゃないか」
「だから、心配でこうして帰ってるんだ」
「ゾラ、君も案外いい子だよね」
フェンが冗談交じりに言うと、ゾラは照れ隠しのように走る速度を速めた。待ってくれよ――それから二人の間に会話はなかった。
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