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ほぼ小鳥遊専用の、客用布団に小鳥遊を寝かせてから、中原が隣の和室に消えた瞬間、ぱちっと小鳥遊の瞳が開いた。蛍光灯は消されているので、暗闇の中、小鳥遊の瞳が何を見るでもなく、ただ開かれている。
軽く、小鳥遊の口から溜息が漏れた。先ほどまでの間抜けな顔が嘘のように、今は真剣な顔をしている。
ふと目だけを動かし、閉めきられた襖を無言で見つめる。数センチくらい開けておけばいいのに、まるで拒絶されているようで、胸が痛い。
襖の前まで音もなく転がり、寝転がったまま、そっと襖に手をかけた。
できるだけ静かに、息を潜めて襖を開くと、静かな寝息が聞こえてきた。闇に慣れてきた瞳に、眉間に皺を寄せ、苦悶にみちた中原の寝顔が映る。
ふっと、小鳥遊は笑った。
話せば長くなるし、他人が聞いてもアホらしいと思うかもしれないから省略するが、高3で初めて同じクラスになってからずっと、小鳥遊は中原が好きだったのだ。
フラれたーと言っては毎回中原の家に上がり込み、思いきり甘えているのだ。膝枕も、もちろんわざとだ。本当はこの程度の酒で酔ったりしない。
(……お前も俺のこと、好きになればいいのに、な)
そっと手をのばし、眉間の皺をひろげてやった。中原は優しいから、どんなにひどい状態の自分も受け入れてくれる。だけどもし、実は女の子よりお前が好きなんだと言ったら、きっと嫌われる。距離をおかれてしまうかもしれない。
それくらいなら今のまま、女にだらしない、しょうがない奴と思われてもいいから、このままそばにいたい。
「……」
眉間の皺がほどけて、中原の唇がゆるんだ。何か良い夢でも見ているのだろう。そっと身をかがめて、顔を寄せる。
そうしていつまでも、中原の寝顔を飽きもせず見つめていた。
ーー100回目の夜は、すれちがう二人の想いを秘めながら、ただ静かに過ぎていく。
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