ショウと翔

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 レイラが忽然と消えて、もう3年が経った。彼女の足取りは依然として分からなかった。遠くに行ける身体ではなかったはずだ。何より、記憶のない彼女が、ふらっとどこかに行くなんて考えられなかった。  あの場所に一人残しておいたことが、悔やまれた。複数の男達に拉致されていたら。そんなことを考えては、何度も身震いした。身元不明遺体のニュースに神経を尖らせ、彼女に似た人を見かければ思わず呼び止めた。    生きていくために、彼女を見つけるために、人を殺す以外、何でもした。集落で育ったショウには、外の世界の何もかもが初めてだった。  ある日、空腹で町を彷徨っていると、男が声をかけてきた。彼は食事をごちそうしてくれ、粗末ではあるが住むところまで提供してくれた。  どうやらショウをホームレスだと思っているらしく、彼はホームレスを支援するNPOの人間だと名乗った。ショウに戸籍がないと知ると、病院にも行けないだろう、どこか悪い所があるかもしれない、健康診断をしようと小さな診療所に連れて行ってくれた。  しかし実は、親切だった男は人身売買の犯罪を行っている連中たちと繋がっていた。ショウは臓器売買のドナーとして売られそうになっていたのだ。  その事実に気がついた時は危機一髪で逃げ出したが、その後にも見知らぬ人に殴られたり、危害を加えられたりすることは日常茶飯事だった。    外見が災いしてか、男にも女にも襲われそうになった。監禁され、いかがわしい店で働かされそうになったこともある。命の危険を感じたことは一度や二度でない。これが憧れていた外の世界かと、底知れぬ絶望感に襲われた。    そんな時に出会ったのが『高垣翔』だった。年も同じ18歳。名前も同じ。彼はわけあって、家を飛び出したのだという。それでも、時折会話に出て来る、一人残してきた母親を気にかけているようだった。  二人はお互いを『ショウ』と呼び合うようになり、困ったときは助け合うような間柄になった。翔はショウの身体能力と頭の良さに、度々驚いていた。ただ、あまりにも世間知らずなので、放っておけない。翔はショウに、電車の乗り方、買い物の仕方、簡単な一般常識を教えた。二人で日雇いの仕事をこなし、時には危険な裏の仕事に手を出して、日々生き延びた。  しかし、そうするうちに二人の存在は目立つようになり、あちこちから目を付けられるようになった。 「俺さ、そろそろ親の所に戻ろうと思って」  ある日、翔が切り出した。 「まとまった金を手に入れて、帰ろうかなと。ショウは一人で生きていけるようになった。何より頭がいいし、その運動神経は普通じゃない。どこでもやって行けるだろ」  ショウはその時に初めて、レイラの話をした。余計な心配をかけたくないので、事件の事は話さなかった。自分は人里離れた場所で生まれ育った。自給自足で生活し、それなりに平和だった。けれどある日、一緒に暮らしていた彼女が突然消えた。自分は彼女をずっと探しているのだと説明した。  話を聞いた翔は、なるほどなと頷く。 「それでショウは世間知らずだったのか。全く、スマホもパソコンも電車も見たことないって言うから驚いたよ。タイムマシンにでも乗って、過去から来たのかと思ってた。そうか、彼女か。お前にもいろいろと事情があったんだな。早く、見つかると良いな。彼女が見つかった時は、俺に紹介しろよ」  翔は微笑んだ。
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