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「ところで、俺たちを呼び出した意図はなんです?」
リュウさんの問いに班長が咳ばらいを一つして、真顔で切り出した。
「今日、お前たちに集まってもらったのは、新しい任務が入ったからだ。今度のターゲットは高垣翔。26歳。最近、アメリカ出向から戻った人間だ。現在はここの警備部に配属されている。階級は警視」
班長がホワイトボードに『高垣翔 26歳』と書く。あたしたちの任務は、エイジ班長が上から直々に受けている。指示を出す人物が何者かは、班長もよく分かっていないらしい。
「という事は、身内なの?」あたしの問いに班長が頷く。
警察職員が捜査対象者になる事は珍しくはない。薬物、銃器などの売買に警察職員が関わっていることもあるのだ。そんな情報が入った時、あたしたちは警察の公安や監察とは別ルートで、内密に行動していた。
今回のターゲット、高垣翔も何かしらの問題があるのだろう。
「この男、かなりの切れ者だと言う噂だ。だが、その素性がはっきりとしない。書かれている経歴に虚偽はないが、怪しい点がいくつかあるんだ。例えば出身大学のデータベースに卒業生として名前はあるが、卒業アルバムのどこにも載っていない。そう言ったところだ。そして気が付けば、警察組織のトップに上り詰めようとしているらしい。ここにいるのも数年、そのうち警察庁にいくだろうと」
「その前にしっかりと身元を洗えというわけか」
リュウさんの言葉に頷いたエイジ班長が、数枚の写真をホワイトボードに貼り付ける。
写っていたのは、爽やかな笑顔の男。ふわふわとした明るい茶髪、色白で透き通った肌、優しそうな目。人当たりが良さそうな笑顔。警察官ではあまり見かけないタイプで、庁舎内にいる女子職員が見たら、ちょっとした歓声を上げそうだ。
「ふーん、可愛い顔しているね。けっこうイイ男じゃん。もっと厳つい奴かと思ってた」
アンがにやにやしながら写真を眺める。
「表向きはな。でも時々、不穏な動きをしているようだ。俺達の任務は奴の素性を暴くこと」
班長の言葉を聞いたリュウさんは立ち上がり、無言で写真を指で弾いた。
「じゃあ、この男は何らかの意図をもって警察に潜入しているのかな。どこかの機関員という可能性もあるってこと?」
あたしの問いに班長が頷く。
「レイラ、まずはお前の任務だ。この男が何者なのか、可能な範囲調べてこい。ただ、既に警察組織の一員で上層部にいる。手荒な真似ができない。だから」
「あたしが慎重に近づいて、調べればいいんですよね」
「そうだ。切れ者らしいからな。リュウジやトウリはおそらく、すぐに警戒される。それにアンは」
「はいはい。イケメンだからって取って食わないわよ。まぁ、つまみ食いくらいはするかも」
「そういうことだ」
「了解」
班長から渡された、高垣翔に関するデータを頭にインプットする。身長、生年月日、血液型、住所、本籍、家族構成、利き腕、趣味、嗜好、今後の予定、面会する人物の一覧等々……。
「よし、覚えたよ。早速、今日の退庁後から行動確認するね。何かあったら連絡します」
「相変わらず早いわねぇ。あんたの頭の中どうなっているの?」
アンが目を丸くして、あたしの頭を撫でる。
「じゃあ、レイラ頼んだぞ。解散だ」班長の一声でみんなは立ち上がる。
部屋を出ようとしたところで、リュウさんに制服の袖口を掴まれた。
「リュウさん、なに?」
「あとで電話しろ」耳元でぼそりと囁かれる。
「うん」笑顔で頷いた。
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