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その男、要注意
「えっと、対象者がいる警備部は8階か。ちょっと様子を探ってみようっと」
この県にある警察本部は10階建てで、各フロアに警務、会計、刑事、交通、生活安全、警備などの部門がある。対象者である警備部の管理官に配属されている警視、高垣翔がいるのは8階のフロアだ。
エレベーターを降り、8階フロアに立つ。制服姿、おまけに警務部で警察官の身上、勤怠管理などを行っているあたしは、警戒されることもなく廊下を歩いた。
「白兎さん。あの書類、ちょっと待ってください。明日には提出しますから」
少し歩くと、顔なじみの警察官に声をかけられた。彼は警備部で事務的な仕事を任されている人間だ。
「お願いしますね。そういえば新しく配属された高垣管理官のデスクはどこですか? 健康管理カードの提出がまだなんですけれど」
「ああ。管理官ならほら、こっちに来ていますよ。変わった人ですから、白兎さんも気を付けてください」
「はぁ」
彼の言っている意味がよく分からないまま、周囲を見回す。
視界に入ったのは、前から歩いてくる制服姿の男。身長175㎝。やせ型。髪はふんわりとした茶髪。色白で、端正な顔。高垣翔だ。ちょうど、給湯室から数人の女性職員が出てきて、彼とすれ違う。女性職員は足を止め、高垣翔に挨拶をした。
すると彼は振り返り、彼女達に微笑んだ。
「おはよう、今日も可愛いね」
「またぁ、管理官は冗談ばっかり」
「それは心外だなぁ。僕はいつも本気だよ。おや、こっちのきみは髪型変えた? とても似合っている」
「気づいてくれたんですか?」
「あたりまえじゃないか。僕はいつもきみたちを見ているよ」
女性職員からはきゃあと歓声が上がる。
何なんだ。気障なこの男は。軽い、軽すぎる。口の上手い結婚詐欺師みたい。一番苦手とするタイプだ。これのどこが切れ者なんだ。見ていると頭痛がしてきた。
あたしが好きなのは、無口でぶっきらぼうで、いざとなったら頼れて……それってそのまんまリュウさんじゃん。大好きな彼の顔を思い出して、自然と頬が緩んだ。
「こんにちは。警務部の白兎レイラさん」
気が付けば、目の前に高垣翔がいた。あまりの近さに息を飲む。いつの間にかこんな至近距離にいたなんて。気配を消した? やはりただ者ではないかも。
「な、なんなんですか?」
思わず声が裏返った。顔が至近距離にある。近い、近すぎる。でも、男の人なのに、綺麗な顔しているな。それにしてもこの男、建物内にいる女性の名前を全て知っているんじゃないだろうか。ああ、また頭痛がする。
「いや、何でもないよ。仕事、頑張りすぎないでね」
奴はふっと微笑んで、あたしの肩をポンと叩くと去って行った。
あれは、なんなんだ。色々な意味で怪しい、胡散臭い。あいつの正体は絶対に暴いてやる。
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