その男、要注意

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 仕事も終わり、時間は現在19時30分。高垣翔はこの後、本部内での予定がない。まっすぐ家に帰るのか、それとも誰かと会うのか。彼の行動を監視することに決め、目立たないように、庁舎の外をうろついていた。  10分ほどすると、高垣翔が本部の正面から一人で出てきた。私服に着替えた彼は、ネイビーのリネンシャツとチノパンというスタイルだ。真面目過ぎず、緩すぎず、まぁ似合っている。いや、そんなことはどうでもいい。これから誰と逢うのか、本当の顔を見せるのか。彼の歩く方角は、記憶した住所とは違っていた。彼の住所は本部から徒歩十分の場所にある警察幹部向けの官舎のはず。だが、こちらは反対方向だった。  そっと彼のあとをつける。  しかし、しばらくすると。 「こんばんは。僕のあとをつけて何の用かな? きみのようなストーカーなら大歓迎だけど」    角を曲がったところで追いかければ、目の前に高垣翔がいた。何故気づかれた? 彼は一度も振り向かなかったはず。カーブミラーや店先のショウウィンドウ、あらゆる物に気を付けて、視界の端にも入らないように、細心の注意を払ったはずだったのに。 「あれ? 高垣管理官じゃないですか。こんばんは。あたしはこの先の書店に用があるだけで、あとなんかつけていませんけれど。管理官の気のせいですよ」  素っ気なく答えた。 「ふうん」奴は疑いの眼差しを向ける。 「それじゃあ失礼します」  とにかく立ち去ろうと踵を返した。しかし、強い力でがっちりと腕を掴まれる。 「何するんですか! 離してください。セクハラですよ」  声をあげ振り解こうとするが、離れない。結構な握力だ。この細い身体のどこに、こんな力があるんだ。この場所で争いはしたくないが、何とかこの場を離れなければ。 「実はね、ぼくもきみに話があったんだ。白兎レイラさん。本当のきみは何者なんだい? ただの警察官じゃなんだろう?」  今まで素性が怪しまれたなんて一度もなかった。そのために、普段は全く違う仕事をやっているんだから。この男は、何が言いたい。ただ、かまをかけただけなのか。 「えっと、あたしは警務部の警察官です。本当のって何ですか? 言っている意味が分かりません。とりあえず手を離してくれませんか? 痛いんですけれど」  振り解こうとしても、びくともしなかった。掴まれた手を解く術は心得ていた。だが、目の前の男にはなぜか通用しない。じたばたするあたしを無視して彼は続けた。 「ほら、いろいろあるでしょ。警察内の特別な組織の事だよ。わかっているくせに。白戸さんは銃撃戦も得意だったりして」  腕を掴まれたまま、何もかも見透かしたような顔で微笑まれた。この笑顔の裏に何があるんだ。 「ええと、銃の扱いってSATとか、SITとかのことですか? でも、あれって刑事課や警備課の管轄ですよね。第一、うちの県はそんな呼び方じゃないし。こんな田舎の警察本部内にそんな特別な部署はないはずですし。あの、誰かと勘違いしていますよ」 「嘘はつかなくていいんだよ。とりあえず行こうか。僕の家に招待してあげる」  彼は相変わらず微笑みながら、あたしの腕を引いた。  この男は何を考えているのだ。あたしが、TNTの一員だと気づいた上で、どこに連れて行く気なのか。何かの罠なのか。また頭痛がして、軽いめまいを覚えた。
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