彼との日常

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 色々なことを思い出しながら掃除をしていると、玄関のチャイムが控えめに鳴った。ドアを開けると、黒い半袖Tシャツにデニム姿のリュウさんが無言で部屋に入って来た。  彼は和室に入ると、ローテーブルの前に座った。  「リュウさん、久しぶりだね。ここに来るの」  冷蔵庫から缶ビールを取り出して、リュウさんに手渡した。 「そうだな」  リュウさんは抑揚のない声で返事をして、缶ビールを受け取った。プルタブを開けて、一気に喉へと流し込んでいる。 「最近、忙しい? 交通部のフロアを通りがかったら、人だかりができていたんだけど」 「まぁな。それよりも、この前は助かった」  何の話だろうと首を傾げ、記憶を手繰りよせる。あの銃撃戦かと合点がいき、微笑んだ。 「ホントだよ。あたしがいなかったらリュウさん死んでたから」 「ああ、ここにはいなかっただろうな」  軽口をたたきあうけれど、本当は分かっていた。あたしたちはいつ命を落としてもおかしくない状況に置かれていることを。もし、あの場で命を落としても、それは決して表には出ない。あたしたちはそういう立ち位置なのだ。  初めて人を撃った時の感覚は今でも覚えている。訓練ではなく、初めての任務。撃ったのは人形ではなく人間。銃を構えた時、足が震え、手も震えた。けれど、撃たなければ殺される。そう言い聞かせて、引き金を引いた。目の前で絶命した相手は、名前も知らない外国人だった。震えの止まらないあたしを、リュウさんがそっと抱きしめてくれた。あの時、彼の腕の中で、ここがあたしの居場所なんだと、ここしかないんだと実感していた。 「制服姿のリュウさんってかっこいいよね。でもさ、その長い前髪は何も言われないの?」  黒くてサラサラの前髪は彼の鋭い目元まで伸びている。手を伸ばして黒い髪に触れる。不意に頭痛がして、こめかみを押えた。 「調子が悪いのか?」 「ううん、大丈夫。なんだか最近、頭痛がひどくて。疲れているのかな」  頭の中心がずきずきと痛い。数日前から不意に頭痛がやって来るのだ。    リュウさんはポケットからこぶし大の紙包みを出し、あたしの空いた掌に載せた。 「なに?」 「お前にやる」  それだけ言って彼はそっぽを向いた。怪しげなものでも寄越したのではと、そっと紙包みを開ける。中には親指の先ほどの大きさで、青く光る綺麗な石が入っていた。 「わぁ、綺麗な色。あの日に見た、空の色だね」 「捜査中に露店で買った。というか買わされた。ラピスラズリというらしい。気休めにしかならないが、強運を導いて頭痛にも聞くと言っていたから。レイラにやるよ」  露店で買わされた? 強運を導く? いつも隙がなく、神仏も信じないようなリュウさんから程遠い単語が出て、思わず吹き出した。リュウさんが怪しい露店の店主に石を売りつけられるところ、見たかったな。 「言っておくが、これは瑠璃色。群青色とは少し違う。受け売りだが、持ち主が本当の意味で成長できるように、試練をあたえる。越えなくてはならないことを、教えてくれると言っていた。お前に必要だと思って」  リュウさんはちょっとムッとした口調で教えてくれた。 「そうなんだ。あたしの試練か。きっとあたしの正体だろうね。これを持っていたら、あたしがどこの誰かわかるのかな。ありがとう。大切にする」  
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