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作戦の先陣を切ったレイラは、侵入経路を確保するため工場に侵入した。光が入ってこない工場内部は、昼間だというのに真っ暗だ。工場内の見取り図、各部屋の広さ、天井までの高さは全て頭にインプットしてある。この先、どこをどう進めばいいのか、彼女は理解していた。手元にあるわずかな明かりを頼りに、慎重に進んで行く。
工場内の間取りはそう変わっていないはずだ。ただのねじろを改装するような手間は使わないだろう。
山の麓にある電線から盗電しようとした跡はあったが、送電線との距離を考えて諦めたようだ。工場の外には古びた変圧器が転がっていた。電源は自家発電機を使用している可能性が高い。やみくもに発電機を探して破壊し、敵がいる部屋の照明を停電させることは諦めた。
まずは少しでも先に進まなければ。
蜘蛛の巣に覆われたミシンが、通路の脇に並んでいる。その横に古びた布が無造作に積み上げられていた。カビの臭いが鼻についた。
工場内を進んだ先に人影が見えた。裸の電球がぶら下がっている付近に男が一人、立っている。見張りをしていると思われる男は、壁に身体を預けて腕を組み、退屈そうに欠伸をしていた。
レイラはサプレッサーがついた自動けん銃を構え、見張りの頭部を躊躇なく撃ちぬき、殺害した。ただ、サプレッサーをつけたからといって、完全に無音になるわけではない。サプレッサーをつければ、聴力安全値の130db以下で射撃可能というだけだ。ちなみに、人間の聴覚は、130dbを超える音を長時間聞くと、聴覚の機能が損なわれる危険性があるといわれている。
音もなく崩れ落ちた見張りの男を一瞥し、周囲の物音に神経を集中させた。今の物音に気付かれれば、何か動きがあるはずだ。しばらく待ってみたが動きは見えない。かすかに男女の話し声が聞こえるが、こちらに向かってくる様子はない。どうやら他の敵には気づかれていないようだ。彼女は静かに足を踏み出した。
(まずはみんなの経路を確保してと)
耳に装着したヘッドセットから『準備完了』と連絡が入った。仲間たちは建物の外で配置についている。武器の装備が完了したようだ。この先にある、敵が集まっているであろう一番広い部屋に、レイラの仲間たちは突入する。その間に彼女は別の出口も確保する予定だ。
レイラはインカムから小声で呼びかけた。
「入口は開けたよ。みんな派手にやって。出口を作ったら合流する」
『了解』複数の声が返って来た。
数分後、レイラの耳に派手な銃声と叫び声が聞こえてきた。
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